Page 2

5月22日(土)レース前日
このレースは、スイム&バイクスタート、バイクゴール地点、ランゴール地点がすべて異なる所にあるため何かとややこしい。
そのためもあってか、レース前日にはバイクを預託し、スイム、バイク、ランそれぞれの道具は専用袋に入れて預けなければならない。事前にキチンと準備をさせて、当日慌てないようにという配慮もあるのだろう。
朝からそれらの準備で過ごす。どのウエアで走るべきか、初デートを迎えた女の子みたいに延々と悩む。9時近くになって、同室のKさんとスイム会場まで行ってみた。宿から2km程度なのでササっと行けるのが便利だ。サンゴの砂浜が美しく、今日はベタ凪で気持ちいい。Kさんはさっそくウェットを着て泳ぎ始めた。僕はハナっから泳ぐ気がなく、ウェットを持ってこなかったのだが、遥々五島まで来て明日1回しか海に入らないのはもったいない気がしてきた。

スイムコースはロープの左側を行き、右側から帰ってくる。ベタ凪の中を泳ぐKさん。

穏やかな陽気の下、砂浜でホゲーっとしていると、だんだんと風が出てきて先ほどの凪状態からサワサワと白い波が立つまでに変化した。海のコンディションはすぐ変わる。

毎度のことだが甲子園球児のようにスタート地点の砂を袋に詰めて持ち帰る。

お昼。穏やかな天候のもと、バイク調整をするひとときはのどかで心地よい。
昨日のそば屋が気に入った僕は、同部屋の人を誘ってまた同じ店に昼飯を食べに行く。店のおばちゃん曰く、「ウチは料理人が素人だからね」。素人だからどうなのか、忘れてしまったけど、媚び飾ることがなく、手抜きもせず、正直でまっとうな作りが美味さの秘訣と見た。同じく富江で買った土産のまんじゅうも、やはり同じ印象をうけた。土地柄であろうか。
午後3時、バイク本体とバイクギア・ランギアバッグを預託する。バイクギアバッグは、明朝もう一度自分で中身をチェック可能なので、さほど神経を使わなくともいいらしい。
島の情緒ある集落や海辺を散策して宿にもどる。よく言う命の洗濯だね。
夕方、近くにある公営の温泉に出かける。我々選手は昨日の登録時から緑色の派手なリストバンドを装着しているので、裸になっても選手とすぐ判る。まあ、リストバンドが無くても見るからに体型が違うのだが。風呂上りに小泉首相がピョンヤンで記者会見している映像を見た。首相にとって長い一日となっただろう。明日は僕らにとっての長い一日だ。
6時から夕食。なぜか食欲旺盛で、三杯も飯を食ってしまった。いつもはダイエットを言い聞かせてメシ椀一杯と決めているので、こんなに思う存分食事をしたのも久しぶりだ。とにかく、エネルギーがなけりゃ走れないからな。夜8時半には寝てしまった。3人の相部屋だったが、息の合う人たちでヨカッタ。

* * * * *

通常、レース参加においては自転車が都合よく移動手段となってくれるものだが、今回の場合ほとんどの人が自転車を箱詰めして事前に宅配してあったり、レース前日の昼間に預託しなければならなかったり、レース後もすぐ引き取れない状況にあるなど、島内の自転車での移動が極力できないような仕組みになっている。まあ、事故を起こさないための秘策かもしれないが、移動が不自由でいろいろと非効率なので、二日前に島入りする必要があるのだろう。

そんなわけで、バスを足とする機会が多いのだが、大会専用バスに乗るためにお金を払うのは納得できない。そもそも、宿は全部九州商船と近畿ツーリストが牛耳っていて自分の好きなところに泊まれるわけじゃないし、福江市内に泊まれなかった運の悪い選手はそれだけでハンディがあるはずなのに、そのうえ移動代を払わされるのはどこかヘンじゃないかと思う。僕らはまだスイム会場に近いというメリットもあったからいいけれど、そのどちらにも近くない島の反対側の宿に当たった人は遥かにタイヘンだ。まあ、景色は良いらしいけどね。

* * * * *

5月23日(土)レース当日
午前4時起床、意外とゆっくりできるのは、スイム会場に近い宿だからか。すぐ朝飯をかっ込む。2杯が限界だ。みんなよくバクバク食べられるよなあ。そういう方面の才能は、まるで持ち合わせていない。

午前5時、ゆっくり歩いてスイム会場へ向かう。ちょうどいいウォーミングアップだ。少し肌寒いが、朝日はしっかり出始めている。風が少し強いのが気になるところだ。

スイム会場へ到着。最も緊張感の高まる瞬間だ。

バイクのタイヤを7.5気圧まで入れて、あとはウェットを着るだけだ。結構肌寒いので、オトコの熱気溢るる着替えテントのなかでじっと時を待つ。
9年前の琵琶湖アイアンマンのときに新調したウェットスーツに、かれこれ何回袖を通したか数えていないが、アイアンマンレースとしてはこれが2度目である。随分くたびれたウェットスーツだが、最近スリムになったお陰か一頃より着やすくなった。

スタートの7時まであと20分というところで、スイム入水チェックを通過した。さて、もう後戻りはできないぞ。いつもなら長いレースを目前にして、とんでもないところに来てしまったという不安で一杯になるところだが、今日は少しばかり違っていた。いつものトレーニングと変らないさ、という感覚だったのだ。もちろん、そう自分に言い聞かせたのであるが、すんなりとその思い込みに浸っていた。ただ一つ心配なのが、この寒さだ。以前の宮古でとてつもなく寒いレースが記憶の片隅に残っていたが、今日は天気もよく気温も23度まで上がるといっている。大丈夫だろう。
後ろに見えているのが、バイクギアバッグ。

スイムスタートは足の届かない深さのところからのフローティングスタート形式だ。岸から150mほどありそうだが、身体を冷やさないよう、スタートまであと3分というところでようやく海に入った。ちょうどスタートの先頭位置付近まで泳ぎ着いた頃に、スタートの号砲が鳴る。
さあいくぞ!