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![]() 10:00am スタート さあて、3時間20分のヴュルツブルク市内観光の始まりだ。 見所あるスポットをほぼ網羅した、平坦な21.1kmの道程を2周することになっている。 10秒でスタートライン通過。フルマラソンでこんなに早い通過は今まで経験がない。参加人数が少ないこともあるが、まあでもハーフの部の選手も同時スタートで、総勢4000人はいる。かなり前のほうに陣取っていたことになるだろう。 今日の作戦は1週間前に決めてある。キロ4分37秒を行けるところまで維持するという単純明快なコンセプトだ。強いて言うなら、この絶妙なペース設定に長年の経験と勘が詰まっている・・・と言いたいところだが実は時速にして13.0kmというだけのことだ。イーブンペースを通せば計算上約3時間15分で走ることになり、ベストタイムを5分以上更新するペースである。ベストは10年前の琵琶湖アイアンマン参戦の年に出した、掛川マラソンでの3時間20分(キロ4分45秒)であるから、冒険であることは間違いないが、このドイツの地でヘタレた走りはしないだろう、という妙な自信があった。ま、潰れた時の感覚というものは、潰れてからでないと思い出せないものなのであるが。 まず走り出して早速後悔したのが、背中の中央ポケットに入れたカッパ。結構重くて、ウエアが引っ張られ左右に振られて、気になってしょうがない。フルの長い道程に対する保険のつもりだったが、実は全然寒くもないし、ただの足手まといでしかない。パラついていた雨も止んでしまったし、持ってくるんじゃなかった。せめて、スタート前に具合を見ておくべきだった。今回は全くアップしてなかったのだ。少しでも背中を軽くするために、アミノバイタルゼリーを右手に持って走る。 それともう一つ。 先月から行方不明のトランスミッターを急遽今回の為に新たに買っていた。電池が取り替えられ、装着感も従来より良い新型で、強く締めても気にならない。昔のタイプは、苦しくない程度に締め付けると、上下動でずり落ちてしまうためテープで固定する必要があったのだ。 ところが、実はこれを装着するのは今回が初めて。Polarを見ると心拍数は171bpmなどというありえない数字を示している。明らかに調子が変なのだ。ちゃんと予行演習すべきだった。 こういうミスって、多すぎじゃないかね? 幸い、2キロ過ぎでトランスミッターは正常な動作に戻った。何が原因だったのか未だ不明。 けれど、それらは実は些細な問題にすぎない。あらゆることでの緊張とか、居場所のない疎外感とか、海外に来ると常に付きまとう肩身の狭い思いからやっと解放され、今やランナーという主役の立場で堂々とこの街を思う存分走ることが出来るのだ。しみじみ、なんて楽しいんだろう!と思う。 さて、最初の1km通過は4分25秒。おっと、周りのハイペースにつられて飛ばしすぎだ。抑えねば。ここにはハーフの選手も混じっていることを忘れぬよう。 最初の6キロまでは人気のまばらな住宅地区を走る。一部対面走行になっていて、後続のランナーたちとすれ違うが、人口分布としてはやや後ろの方にごっそりとかたまっているようだ。日本のマラソンよりもスローペース派が多いように感じるけれど、記録はどうだっただろう。 エイドステーションは比較的頻繁にあり、困ることはない。ただ、水だけのエイドが多いね。紙コップではなくプラスチックだった。日本のように、エイドの少し先にキャッチャー(ゴミ箱)などは無く、路面に散乱している。こりゃ掃除が大変だ。 5kmの通過タイムは22分41秒で、目標ペースを結構上回っている。最初だからまあそんなもんかな。 ![]() こちらの沿道の人々はとても積極的だ。見に来た人はすなわち応援のために来た人であり、ただ見て立っているだけという観客は少ない。そして何より喧しい。多くの人がホイッスルを持っていてピューピュー吹きまくっている。それと何かぶん回してガラガラ音を立てるヘンな小道具を持っている。あれは何? 単に騒々しいだけかも。 ![]() マイン川沿いを上流に向かって走りつづけ、ビュルツブルク中心街から最も離れた穏やかな住宅街に来た。11キロ地点を過ぎ、折り返し。向かい風に変わったので、帽子を逆向きに被りなおす。今のところ、身体から異常のサインは発せられていないが、先週22kmを走った時よりもやや負荷が高い感じがするのは気のせいだろうか。心拍数も140bpm近辺を指していて、普段のフルマラソンよりも高い値で推移しているのが少し気がかりだ。 ![]() 13km手前でマイン川を市街地側に渡る。少々の上り坂を慎重に走ったのでキロ4分40秒をオーバーした。「ちょっときついかも」という感覚が初めて訪れた瞬間だった。「腕を振れ、腕のエネルギーはどうせ余る」、そう言い聞かせる。 相変わらず右手にはアミノバイタルゼリーを握り締めている。1週間前に22kmを走った時も実はそのスタイルだった。験を担いでいるのかもしれないが、まだ中身には手をつけていないので、単なるウェイトでしかない。このアミノゼリーは少しほっそりして長く、くびれた独特の形をしていて、持って走るには都合が良い。 16kmあたりからはマイン川対岸のマリエンベルク要塞を左手に眺めつつ走る。ちょうどこの頃、アディダスかニューバランス(どちらか忘れた)のチームウェアを着た男女が並んで走っており、ペースメーカーにさせてもらっていた。映画スターのような大柄で筋肉質な男性は、女性の付き添い走りなのか余裕がある。街の中心部に近づくこのあたりから応援する人の数が急に増え、非常に賑やかになってきた。この大男は、沿道の人々に対して大きく両手を掲げ、「もっと盛り上げてくれー!」といわんばかりに所々で手拍子をする。彼のパフォーマンス姿が沿道の人々を一層盛り上げて大フィーバー。まるで街の有名人みたいに、彼と沿道の人々の息が合って、大声援があちこちで響いた。これはすごいことですよ。 沿道の人々が発する言葉は「ズーパー!(super!)」、すごいぞ!ってとこだろうか。「がんばれー」と叫ぶよりも好感が持てる。べつだん頑張ってない人から、頑張れって言われるのは考えてみりゃ癪だ。 ![]() この橋を渡るとスタート地点まではあと僅か。なんだかもうゴールを迎えた気分であるが、マラソンの部はまだ1周目。ラストスパートするハーフの部のランナーを横目に、黙々と2周目へと入る。ハーフ地点通過は1時間37分23秒。後で知ったことだが、驚いたことにこのタイムはキロペース4分37秒、スピードにして12.999km/hという恐るべき正確さだった。 ここでトイレに行くはずだったが、多分尿意が失せていたのと、コース設計上実はここのトイレには寄れないために、すっかり忘れて通り過ぎた。草むらにベストのカッパを放り投げる。やっと背中の重荷から解放され、2周目へ向けて良いリフレッシュとなった。アミノバイタルを少し口に含んだが、これは相変わらず手に持って走り続ける。 ![]() ハーフの選手がいなくなり、ぐっと人口密度が減る2周目。誰かを目標にして走らねばと思うが、周りのペースは徐々に落ち気味で、ほぼ追い越すばかりの状況が続く。 32kmを過ぎたあたりで、足首を固定する筋肉がややヘタリ始めた。ランでは真っ先にダメになるところだ。着地の微調整が出来なくなり、パタパタと靴音が大きくなってくる。それと、少し加速気味でないとすぐに失速して目標ペースを下回ってしまうようになってきた。この頃の心拍数は160bpm近くで推移しており、フルマラソンとしては異例の高負荷になっている。従来なら早々と脚が売り切れる自殺行為の負荷だが、今日はまだ余裕が感じられる。一頃から比べてスタミナがついた証拠だろう。 1周目でも坂の辛さを感じたマイン川を渡る橋で、やはりペースダウン。魔の35km地点通過地点で、初めてキロ5分をオーバーしてしまうが、気分的には「なんだ、あと7キロか」といった感じで、その後のペースの崩れはかろうじて抑えた。 ![]() ![]() レジデンツ脇を通るあたりではペース維持の精神をうっかり忘れてキロ5分をオーバーしてしまったが、マルクト広場あたりではやはり沿道からエネルギーを貰ってペースも復活、最高の気分でアルテ・マイン橋を渡ればもうゴールはすぐそこ。なんだ、あと3キロは走れたかもなあ、とちょっとした余裕を感じつつレース会場へと入っていく。最後は特設テントの花道をくぐり、ジャパンがどうのとDJが叫ぶ声が聞こえた気もするが、大フィーバーの声援に両手を振って応えつつ(まるでアイアンマンのラストシーンみたいだ)上機嫌でフィニッシュテープを切った。タイムは3時間17分57秒(ネットタイム=3:17:47)。 個性的な完走メダルとタオルをかけてもらう。 |
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