第5回うつくしまトライアスロンinあいづ参戦日誌
2003/8/24
オリンピックディスタンス
猪苗代と会津の2箇所のトランジットを持つこの大会は、段取りがややこしく頭を使う。去年の教訓から、今年は会津若松に宿を取った。東山温泉近くにある民宿の多賀来荘は、特に食事が素晴らしい。ナス田楽、海老の姿焼きグラタン詰め、明日葉のおひたし、小ナスの浅漬、なめこの大根おろし添え、冷奴、インゲンの田舎味噌汁。レースには最善の食事だ。雰囲気のいい食堂で味わえるのもまたいい。これで6300円は良心的だ。
雨という天気予報は見事に裏切られ、翌日の朝は気持ちよく晴れ渡っている。会津大学でラン用具をセットした後、専用バスに乗り込み、スイム会場の猪苗代へと向かう。シートで隣り合わせた元気ハツラツな女性は偶然ゼッケンも隣同士で、道中退屈しなかった。レースは今年から参加という初心者だが、競技歴10年以上かと思わせる貫禄と場馴れしたノリに、今年15年目のこちらが圧倒されてしまった。
早朝の会津ではおだやかだった風も、猪苗代に来てみると結構強く吹いていた。今年の夏は雨が多く、湖の水かさが増えているため、スイムスタート地点は水中ではなく砂浜へと変更された。ただ僕の記憶では水際の位置は去年とさして変わらないように思えたのだが。沖からの風で波も高く、往路は難儀するだろうとの発表があった。一直線750mの往復コースだが、折り返し点までたどり着けそうにないと判断した人は、途中放棄して引き返してもバイクとランに参加することはできる、という特別ルールが設けられた。実際、そうした人は十数人いたようだ。
午前9時、約300人弱の選手が一斉スタート。噂どおり、小刻みな波が激しくて泳ぎづらい。うねるような海の波とは少し違うようだ。ちっとも進んでないような気がする。400mほどいくと、水深も2-3mほどになり澄んできて底が良く見える。方向を掴みやすいのでヘッドアップ回数が減り、幾分泳ぎやすくなった。やっとのことで折り返しポイントを15分20秒で通過。期待値よりはるかに遅い。折り返すと途端に泳ぎやすくなった。ぐいぐい進む感じがする。これなら前半で遅れた分も取り返せそうだ。
だが、その感触とは裏腹にゴール地点が一向に見えてこない。どういうわけだ? 蛇行してしまったか。いつしかすでに、とっくに上がっているはずのタイムになっているがゴールゲートはまだはるか先。結局、復路も同じくらい費やし、合計30分以上かかってしまった。結構自信をつけたと思っていたスイムだが、まだまだのようだ。
丸9年間使っているウェットスーツを脱ぐのにかなりてこずった。腰から下が特に引っかかる。多分2,30秒は平気でロスした。体型の変化にウェットが対応しきれなくなったか。
今回、当然のようにペダルにシューズをセットしていたが、コースをよく把握すべきだった。乗車ポイントまでバイクを押していく間に、砂利道があるために、乗車してから足の裏に鋭利な砂が大量についてしまったのだ。
バイク5km地点に踏み切りがある。ここでは、バイクを降りて押して渡らなければならない。降車ポイントに立っていたおじさんが何を慌てたのか止まりかけの僕にぶつかってきた。急いで踏切を渡り、再びまたがってペダルにシューズをはめようとするがまったくうまく行かない。何度トライしてもペダルが逃げる。実は、先ほどのおじさんとぶつかった衝撃でチェーンが外れていたのだが、気付くのが遅すぎだ。チェーンをはめるのにもてこずり、思わぬところで40秒はロスしただろう。それまで一緒だった選手はまったく消え去っていた。
猪苗代と会津若松を結ぶ県道に入ると、ここからは暫く下りのハイスピードコースだ。都合よく激しい向かい風が吹き、下りでもスピードがなかなか出ないのだが。
ところで、今回は新たにポラールの心拍計S710iを購入してバイクパートを計測することにした。走行中の心拍数を見ると、140以下を示していた。本番中でそんなに低くて良かったんだっけな? 暫く138前後を刻む。
と、そこに、報道カメラのバイクが接近。これはいいところを見せなきゃアカン、と見栄に我を忘れる悲しい性。50km/hのスピードでも積極的にダンシング。心拍数はすぐに150を超えた。ちょっと図に乗りすぎたかと思ったが、それをきっかけにして150前後での心拍数でバイク終了まで走ることになる。つまりは丁度いいペースアップ材料になったというわけだ。本来、150でも低いと見られるだろう。
レース初登用のディープリムZIPP404はかなりいい感じだ。鮮やかなフレームカラーのFONDRIESTに乗るツワモノの選手を、下りでパスする。このあと、長めの登り区間でまたこの人に抜かされ、脚力はどう見ても僕のほうが低いのだが、下りに転じると再び余裕で抜き返した。高速域ではZIPPのアドバンテージがかなり高いようだ。
結構な風圧に抗いながら55km/hのスピードでガンガンペダルを踏んでいるとき、ふとヤン・ウルリッヒ(なぜかランスではなかった)はこんなスピード感覚でTTを走っているのだろうと考えたら、彼の偉大さに思わず感極まり涙腺がユルくなってきて困った。ヤンとの大きな違いは、こちらは路面に傾斜がついているということだ。それにしても気分いいなーと絶好調。
ゴールの会津大学が近づいてきた。脱ぐのに時間がかかるシューズを履くため、ゴール地点までの距離が読めない今回は乗車中に脱ぐことは諦めた。だが、コース下見を怠ったという点も含め、これも今回失敗点のひとつだ。そもそも、履いているSIDIのシューズは完全にロード用で、トライアスロンにはまったく不向きなのだ。よくぞこんな複雑な機構のシューズを今まで使ってきたかと思う。ペダルから外した状態でも脱ぐのに時間がかかる。少しでもタイム短縮を考えるなら、シューズの買い換えはすぐ検討すべきだろう。

[Polar S710iのバイク区間データ]
走行時間1:04:42。平均-最大心拍数148-156bpm
平均-最大速度37.0-61.4km/h
標高差-342m (Altitudeの絶対値は不正確) 気温平均 27℃
消費カロリー885kcal


そんな不本意なトランジットを終え、ランスタート。大学構内とその周辺を2周する平坦なコースだ。
去年と違って脚はまだ余力があり、痛みやケイレンなどの兆候もなくベストコンディションだ。ランのタイムは心肺機能と気力(どちらかというと後者)が鍵を握っていると言えそうだ。やる気をなくしたら負け。気温は恐らく28度ほどだろうが、さほど暑さの影響を感じない。エイドは充分あり、何が欲しいのか自分でも良く判らず(多分足りていたんだろう)、ほとんどはスポンジをとってかける程度だ。
ただ、その気力が足りないのかスピードが出ず、つまりは純粋に力量不足であることを痛感。もっとランの練習を増やさないと。集中力が途切れてガタ落ちしないように、慎重に粘る。
2周目に入ったあたりで、走りに慣れてきたせいか調子が上向いてきた。ふと、すれ違う女子トップの招待選手と目が合い、後方に迫っていることを知る。ランは多分彼女のほうが速いから、追いつかれぬよう、踏ん張ろうとする気持ちが出てきた。ラスト近く、余力のある脚を限界まで使い果たさんと、ようやくスイッチを入れる。
大学構内ではノリのいい音楽と共に、選手一人一人を紹介しつつレース実況して盛り上げる大会委員のIさんの黄色い声がこだましている。現役DJだとしても不思議ではない、見事な話っぷり。福島では旦那さんと共に超有名トライアスリートである。僕を知ってのことなのか、ゴールの時も色々とサービス旺盛な紹介をつけていただいたが、ゴールテープを切る瞬間、まるで小原工(ご存知トップアスリート)のようだと持ち上げてもらったコメントに意表を突かれた。そんなに顔が似てたっけな? あまりに恐れ多いが。
全盛期に目標ラインとしていた「全参加者の1割以内」という順位はこのレースでも達成できなかったが、前回より着実にレベルを上げたので満足度は高かった。去年出た東北地区全ての大会でことごとく大敗を喫した3人のベテラン熟年アスリートに今回圧勝できたのも密かな悦びだ。厳しい条件とはいえスイムが30分を切れなかったこと、調子の割にランが43分という平凡なタイムで終わったことが残念。それと、つまらぬロスタイムがいろいろ重なったのはいただけない。まだまだ真剣度が足りないと言えそうだ。

*  *  *

今大会中、不覚にも涙腺が緩んでしまった場面がもう一つあった。ゴール後、レースを観戦している時のことだ。
参加者のT夫妻は、ほぼ全盲のアスリートで、主催者側の協力もあり今回のレース参加が実現した。僕らはお金を払うだけですぐ参加できるが、彼らはレース出場のために色んなハードルを越えなければならないのだ。
スイムはどうしたのか聞きそびれたが、バイクはタンデム車で走り、ランは伴走者をたてた。そのTさん(女性のほう)が若い女性伴走者と共に元気よくやってきた。Tさんの走りは動作が激しく、左右非対称の独特なフォームだった。だがその力強さとひたむきさに圧倒され、また、あれほどの激しい動きを可能にする普段からの並々ならぬ練習を想像すると、感極まってしまったのだ。ヤバイヤバイと思い慌ててサングラスをかける。そんな彼女の姿だけでなく、その脇を、常にTさんのほうに少し身体を向けて気遣いながら、小走りに付き添う長身の伴走者の姿も、いたく感動的なのであった(あいにく男性のTさんは見かけなかった)。
彼女達は僕の目の前を2度通過したのだが、1度ならず2度目もうろたえてしまったのには参った。
閉会式で、背広姿のどこかのお偉い方が「Tさんの走る姿は我々に感動を与えてくれました」などと話をしていたが、いやまったく同感、としきりにうなづいたのだった。