幕張新都心トライアスロン参戦日誌
2002/10/06 
オリンピックディスタンス

今年からITU(国際トライアスロン連合)のワールドカップが同時開催されることになったこのレース、賑やかさを増して参加者も500人前後と、不景気のこの頃にしては依然多人数を維持している大会だ。
そのワールドカップの影響で、バイクパートでは幕張メッセ横の海岸沿いの大通りを往復車線占有できるようになり、DHバー装着が許可された。ありがたいことだ。
東京湾でのスイムはどこで泳いだって汚いのだろうが、河口に変更されてさらに汚さが増していないか少しばかり不安だ。今までは砂丘の沖を平行に泳いでいたので、息継ぎでプリンスタワーが見えて、あたかもゴールドコーストのような気分を味わえたが、残念なことに河口付近では何も見えない。7時半にフローティング形式で第一ウェーブがスタート。3分おきに第3ウェーブまで順次スタートする。横数mにすぐにテトラポットが迫っているため、かなり狭いコースレイアウトである。おかげでスイムバトルからは逃れようがない。
今回はペース配分について考えてみた。5割程度の楽な力でスタートして腕に乳酸を溜めないようにし、1000mを超えたあたりで徐々にペースアップしようというもの。いつもなら、スタートダッシュでオーバーペースになり、500m付近で明らかにバテて、その後は惰性で泳いでいるという感じだったのだ。今回は決してバテるような事がないように心がけた。それがトータルで見れば最も速いと考えたからだ。だが、その戦略はスイムバトルと長く付き合うことにもなった。結果的に正しい選択だったかどうか、怪しいところだ。
確率的にどうしても数回は水を飲んでしまうが、ふと気づくと全然しょっぱくないことがあった。その付近は、100%川の水だったのだろう。飲んでしまって、良かったのだろうか?
ようやくスロープを上がれたのが26分過ぎで、奇跡は起こらなかった。まあこのところのスイムは、期待値以上だった試しがないけれど。まだまだ追い込み不足のようだ。バイクラックまではやや長いミニラン。トランジットではゼッケンベルトの装着にてこずり(何のためのベルトか)バイクシューズはペダルにセットしておくのをすっかり忘れていた! つまらないミスが続く。
スタートして500mも行かないのに、前方から思いっきり「パシューッ!」という不幸の炸裂音がした。このタイミングでのバーストは、明らかに整備不良によるものだろう。わが身でないことにホッと胸をなでおろす。驚いたことに、彼は止まってパンクを直そうとしない。その状態で40km走りきろうというのか? それだけの見上げた根性があるのなら、スペアタイヤで車重が増えるのを惜しむことも無かろうに。
バイクコースが広くなったことで、ドラフティングが激減したのは嬉しかった。片道三車線もあるので、団子状になることが少なく、意図的でないとドラフティングできなくなったのだ。それでも、最初の数kmはケツにぴったりついてくるさもしい奴が一人いた。しかも、折り返しポイントでインにつけ、走路を邪魔するのだ。何という恩知らずな奴だろう。
バイクでもすこしアタマを使おうと考えた。6周回するので、ラップを記録してペース管理しようと考えたのだ。6.6km一周の目標ペースは11分10秒以内と決めていた。スイム同様、力みすぎずに、と心がけて迎えた1周目のラップは、11分7秒と出た。目論見の正確さに我ながら驚く。これは幸先がいい。疲労のない1周目だから出たタイムかもしれない、と思うと油断はできない。
ところが意外にも、その後もラップを着実に縮め、最後の周は10分40秒付近まで短縮した。力の入れどころと抜きどころを徐々に体が憶え、スピードを殺さない効率のいい走りが構築されたためだろう。それと、やはりZIPPのディープリムはスピードに乗れていい感じだった。ほぼ無風だったが、平地でも38km/hを、下りで加速した後は43km/h程は出ていたと思う。トランジットを除いた実質的な平均速度は、36.5km/h前後と算出できた。近頃の実力を考えれば、上出来だろう。
トランジットへ帰ってくると、バイクは数えるほどしか見えない。1秒も惜しまないトップ選手のような気分でランへと飛びだす。だが、そんな見栄とは裏腹に、実のところランの調子はイマイチだった。スピードに乗れないばかりか、2kmほどで早くも息切れだ。今回はバイクを重点的に攻めたので、その役目を終えランでの目標を失ってしまったかのようだ。
一昨年の39分の走りから比べると明らかに平凡なペースである。この頃自分のものにしつつあるピッチ走法も、息が上がっているとなかなかできない。エイドの水を取り損ねたり、左折するところを右折してしまったりと、注意力も散漫である。
結局この集中力のないランは最後まで返上できなかった。唯一、右足首の肉離れの発生を抑えたのは進歩だったが。ゴール付近で射程距離内に捉えた前方の選手も、気力不足のため追いつけずにそのままゴールテープを切った。
とはいえ、過去のベストタイムを更新できたので、終えてみると大変満足したレースだった。それに、原町で知り合った友人との再会も嬉しかった。かなり昔の波崎や温海のレースがそうだったが、どんなに結果が良くても、一人ではやはりツマラナイのだ。

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ちょうどゴールしたすぐ後にワールドカップの女子がスイムスタートした。主にバイクパートを観戦したが、集団を作って走るレース展開を実際に目にして、これもなかなか面白いスタイルだなとあらためて思った。この集団走行のスタイルは多分僕ら素人のレースではこの先も認可されないルールだろう、とも思った。
男子はトランジッションも観戦したが、信じられないタイムでスイムから上がってきた選手がどっとトランジットへなだれ込み、そのままの勢いでバイクパートへスムーズに移行していく。その素早さはまさに芸術的であり、ただただ口を開けて驚くばかりだ。最も驚いたのはランだ。まるで、仕切られた狭いコースをはみ出さないようにコントロールしながら駆け抜ける馬のようだ。ひょっとすると主催者の確信犯的演出で、あえてランコースを狭く設定しているのかもしれない、と疑ったほどだ。とにかくその迫力は、人間という生き物が走っているような感じがしない。数年前に観戦したお台場でのレースよりも格段にレベルが上のようだ(選手層を見るとそれも当然の話だが)。そのなかで、日本人選手がなかなか健闘していたのは嬉しい。オリンピックなどをTVで見ていると、入賞できないレベルの選手には一気に興味を失うものだが、こうして生で見ていると、周回遅れで失格にならないだけでも奇跡のように思え、そのとてつもない強靭ぶりに見入ってしまう。
トップは1時間48分台でゴールしているから、驚くべきハイレベルなレースを目の当たりにしたことになる。そしてまた、自分のレベルとは比べるべくもないことを肌で感じ、なんだか今日の自分のレースを顧みてばかばかしい気分にさえなってくるのだった。

彼らを見て感じたのは、以前のようにごっつい筋肉マンは影をひそめ、スラッとした細身の体型が多いということだ。多分、身長に比してのいわゆる標準体重をかなり下回っているのではないか。そして、極めて上質かつコンパクトな筋肉で占められている。極限まで削ぎ落とされた上等なバイクと同じだ。女性選手に至ってはモデルのような美しさだ。ぜひとも見習いたいポイントである。