第14回佐野トライアスロン参戦日誌
2002/9/15 
オリンピックディスタンス

第1回大会に我が初レースとして出場したこのレースは、自分の歩みをそこに映し出すような特別の思い入れがあり、プールというコース設定にかかわらず、以降14年ほぼ毎回参戦している。一昨年に、ライバルのSさんに初めて負けてしまい、昨年はひどい風邪に見舞われやむなく棄権、今年の密かな目標はSさんに後塵を浴びせることであった。
2週間前の佐渡以降も比較的順調にトレーニングを積めたので、ここ数年落ちつづけている記録にストップをかける勝算はあった。8時にスイムスタート、最前列の一番端から勢いよく飛ばして好位置を得、そのままガンガンいくつもりだった。
しかし、250mの周回プールを半周もしないあたりで、いきなり疲れてきた。佐渡であれほど調子が良かったのに、どういうわけだと悔しく思う。6周回もしなければならないのか、とやけに長いように感じた。ただでさえ、選手全員の泳ぎがここを流れるプールへと変化させ、はるかに短時間で終わるというのに、なぜか辛さが前面に出てくる。おまけに、突然腹が減ってきて、やる気までも萎みかけてきた。
6周という数は、うっかりしていると分からなくなるので気を遣う。だが今回は、ふと時計を見て、いつまでのんびり泳いでいるつもりだ!という時間になっていた。以前と比べると本当にスイムが遅くなった。トランジットへ行ってみると、案の定バイクは結構出払っている。



バイクにシューズをつけたまま乗る練習を事前に行ったのが効いて、スムーズなスタートを切れた。スイムの時の倦怠感は不思議と無くなっていた。無風、気温は20度ほど、曇り空で、タイムを狙うには好条件だ。

佐野のバイクコースは、簡単に言えば山に向かって走る折り返しコースで、前半が緩やかに続く登りとなる。高低差は僅かだ。 以前はその登りで32km/hを下回ることはなかったが、今回は28km/hに落ち込んでいることもあった。明らかに遅いことを痛感する。
予想通りいくつかのドラフティング集団に抜かれる。だが、いまにして思えば、一人で抜いていったヤツはいない。おまえら本当に一人で走っていたら抜いていたのか? せいぜい先頭を引っ張っていた2,3人ではないのか? S野TCとプリントの入った3人が固まってドラフティングである。自然発生した集団より悪質ではないか? 地元のトライアスロンクラブが堂々とドラフティングするのはいかがなものだろう?
10人ほどの大きめの集団をやり過ごし、依然200m先に滞っているころ、沿道のオッサンに「前につけるぞ!」とヒソヒソの声音で叫ばれた。追いついてケツにつけとのアドバイスらしい。いかにも耳より情報を伝えてやったという意味深な笑顔を投げかけながら。だがオッサンよ、アンタは間違えているよ。その集団を自分がもし知らなかった、つまり自分は後から追いついたのだとしたら、その集団は自分より遅いんだよ。遅い奴らについてどうするんだよ。そしてもし、自分がその集団に追い越された、つまり実際のケースであるが、あれほどの大きな集団なら、その気があれば余裕でケツについていけるということだ。オッサンの言う汚いプレーはしたくないという表れなのだよ。
折り返しポイントでは、バカ騒ぎしている一台のワゴンを見かける。どうやらT波大のサークル連中らしい。交通規制なしをいいことに、応援隊がクルマでコース上を走り回っているらしい。エイドステーションの飲み物を車内から取ろうとしてエイドの人にこっぴどく注意されてしぶしぶ走り出したところに、ちょうど自分が追いつく。奴らは窓をあけてスパーッとタバコを吹かしてのろのろ走っている。何たる悪態、コース妨害、おまけに臭っせーんだ。
大会のいたるところで奴らは終始、酔っ払い連中のように喧しくて顰蹙をかっていた。すっかりコドモじみている大学生集団が最近本当に多い。こいつらには負けたくないなと思う。
下りは40-45km/hをキープして順調に走れた。もう集団には抜かされず、むしろ登りで抜かされた憶えのある2,3人を追い越した。終盤に近づくと前方遠くに集団が見えた。下りはかなり調子が良かったようだ。
バイクを終えてトランジットに入っていくと、ちょうどランで出て行くSさんを見かけた。バイク前半で早々と抜かされていたのだが、この分なら追いつくかもしれない。暑くない今日はトランジットでの手順も簡素で早々とランに出かける。



問題となるのは、爆弾を抱えた右足首の肉離れだ。ここに痛みが生じると極端なスローダウンを余儀なくされるので、目覚めさせないことが最重要なのだ。最近の経験では、12km/h以下で走るか、ストライドを極力短くすれば回避できることが分かっていた。だが12km/hでは問題外に遅いし、本来ストライド走法の自分にとってピッチ走法で速く走ることは容易ではない。
前方約200mに見えるSさんの派手なバンダナが目下の目標物だ。だが見たところ快調な走りで安定している。殆ど同じペースで追いかける。時折り、手持ちのエアーサロンパスを右足首に噴霧するが、気休めでしかない。妙なしこり感があるが痛みはまだ僅かだ。バイクで追い越されたS野TCを二人抜き返す。
今回、新調したSPEEDOのウエアは大きな選択ミスだった。やたらとピチピチしたこのウエア、標準体型の自分にとってMサイズはベストと信じていたが、あまりにバストがきつく、肺が締め付けられて呼吸がつらいのだ。手を無理やりつっこんでウエアをぐっと開いた瞬間だけ、フッと楽になる。アスリートの標準体型としてはやや太りすぎであることを自認しなければならない。
5kmを過ぎても走りは順調で、エイドのお世話にもならず、バテる気配はない。爆弾さえ目覚めなければ、このままゴールまでペースを維持できそうだ。Sさんとの距離は20mにまで縮まっていた。名物の1.3kmの直線道に入ったとき、とうとうSさんの横につけ声をかけた。Sさんの余裕あるリアクションを見ると、まだ油断ならない。さて、追い越していくべきか、このまま並走すべきか。目標を失うと、とたんに崩れて逆転される苦い経験は多い。心肺機能はまだ余力があると感じた自分は、先を行く選択をした。
無意識ながら、Sさんをちぎるためにペースが少し上がったせいかもしれない。その後1kmほどで、じわじわと痛みが出てきた。10kmのレースではいつも7kmあたりで痛みが本格化する。今回も例外なく7km付近だ。だが、走り方のコツを心得ているという点で今までとは違うはずだ。
腕を意識して振り、膝を曲げて小刻みに繰り出し、痛みをかばう。かなり奇妙な意味で限界の走りだ。普段どおり走れたらどんなに楽だろう、と恨めしく思う。
痛みとそれをかばう走りで、徐々にペースは落ちていたはずだったが、背後にSさんの気配は見えてこない。
そのバランスは大きく崩れることなく、ゴールまで持ちこたえた。脚以外の部分は余力を残した状態なので、やや物足りなさも残ったが、その割にはランを42分そこそこで走れたのでよしとしよう。だが、記録は前々回のタイムをかろうじて上回ったものの、依然として遅く、ベストからは10分以上悪い。
痛みの問題は今後も課題として残りそうだ。