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第23回ツール・ド・おきなわ2011参戦日誌
2011/11/13 市民レース140kmの部 出発前夜の金曜、輪行袋にTIMEを詰め終えて床に入ろうとしたとき、ZIPP808に付いているスプロケが12-23Tのままだったことに気づく。今回は25Tで行こうとの決心がついていたのだが、時間切れということで諦めた。この場合どちらが正しいかは判らないのでまあいいんだけど、つまりは今一つ緊張感に欠けているようだ。すでに意識の方は十日後の大田原マラソンのほうに奪われつつある。とにかくまずは五体無事でレースを終えること、それが最重要課題なのだ。 11/12(土) レース前日 朝5時40分、家を出る。キャスターの付いたバッグに背負わせて歩けば輪行も意外と楽だ。羽田で物ポンツアー5名が合流し、飛行機もあまり遅れることなく無事テイクオフ。 那覇空港に着陸した頃に嫌な異変を感じた。 連日寝不足だったため機内では8割方寝ていたが、身体に合わないシートのおかげで顔が上向き、口は半開き。乾燥した空気と寒さのなかで2時間半を過ごした結果、喉の奥がチリチリと痛く、鼻の奥は火照った感じに仕上がった。まったく、なにやってんだ。 ガダルカナルタカのようなヘアスタイルで大浜さん登場、計6名は2台のレンタカーで一気に名護までノンストップ。車から降りてみるとそこは強い日差しに照らされ、まさに夏再来である。 選手受付まで歩く中、ぼーっとしてだるい。 市の中心地ではクリテリウムが行われており、1km強の短い周回コースを選手がぐるぐる回ることになっている。選手受付はその島の中にあり、コースを横切らないとたどり着けない構造のため、レースが行われる2時間程度は受付を中止している。それ問題でしょ? ぎりぎり受付には間に合ったがレースは開始され無理くりコースを横切って脱出。名護曲という店で遅い昼食をとった後、いつもより早くオクマに着いた。体育館で自転車を組み立てて試走に出かける。直前までランを入れたため、テーパリングがうまく行っているかどうかが気になっていた。とりたててミラクルな感じはないが、芯に疲れが残っている印象もないので、まず問題なさそうだ。 与那からダムへの上りを少しだけ行ってみる。程なくして左側1車線丸々工事区間に出くわした。えー?これはまずくない? まだ上り口なので道幅いっぱいに選手は来るはずだ。傾斜も緩いので30km/以上出ている。ここで急に反対車線のみとなるとどんな事態が起こるか、想像に難くない。大惨事も有りうる。 不安を残しつつ宿へ戻る。 オクマの夕食は年々ショボくなっている。この自転車ブームで参加者激増中なのに、コストカットする理由が判らない。昔のように豊富な食べ物に目移りすることがないため腹八分目を守れるというメリットはある。このままでもいいから宿代に反映させてほしい。 今回、暑さが急に気になってきて、補給食をまだ用意できてないことの重大さをようやく認識し始めた。選手受付会場付近のブースで一通り入手できたはずなのに、その時点ではまだどうでもいいと考えていた。幸い、浅倉さんがカーボしょっつるを10個くらい持っていたのでそのうちの1つと、くたくたになったパワージェルを分けてもらった。賞味期限はとうの昔に切れており、浅倉さんの背中でさぞかし熟成されてきたであろう一品である。 ゼッケンをつけ、9時半には寝る。 夜中に目が覚める度に喉の痛みは倍増しており、着々と進行しているようだ。明日のレースは切りぬけられるだろうが、大田原がまずいな。 11月13日(日) レース当日 「いびきかかないって言ってたのにかいてましたよ」と小村君からクレームが入る。明らかに喉ちんこが腫れて垂れ下がっていた痕跡を感じる。すまん。マイ枕やナイロンタオルを持参する彼は実はデリケートである。 朝食は合格点レベル。夕食よりも豪華だった。 競技スタートは9時過ぎなのに、荷物預託が早いために朝食を5時にとり始めなければならないのは毎年腑に落ちないが、そういえば、預託&出走票提出と朝食とを入れ替えてもいいのでは、という案が後になって出た。来年は検討しよう。 荷物を預けた後、スタート地点へは行かずに再び部屋へ戻る。これも初の試みだ。どうやら何ら問題はない。なぜいままでそうしなかったんだろう。特に雨の日は有効だろう。 8時20分頃、チェックアウトしスタート地点へ移動。7時10分までに出さなければならない出走票を今頃出して、訝しい顔をされてしまった。そりゃそうだな。 今回はほぼ最後尾でスタートを待つ。物見山メンバー全員やFitteなども近くにいたのであまり気にしなかった。国際210kmがいつのまに通過していたんだろう。例年のような待ちくたびれた実感はなく、早くもスタート時刻が迫ってきてコース上に整列する。ふと足下に誰かが置き捨てたペットボトルをみつけ、暑さが厳しくなることを見込んで身体全体にぶっかける。 スタート時に装備した補給類 水500cc MDたっぷりコーラ500cc パワージェルバナナ味 カーボショッツ 電解質タブ 朝バナナ 9:05 a.m. 市民140kmの部スタート 後方スタートの今回は前へ上がる命題が加わったものの、ここから与那の登り口までの平地は密集した集団にただでさえ生きた心地がしないので、正直無理な気もしていたのだが、浅倉さんは早速右端へ移動してポジションを上げ始め、二郎さんもそれに続いている。ぼやぼやしている場合ではない、上り口まではすぐ着いてしまう、と覚悟を決めて後を追う。 意外と怖くない。密集度も殺人的ではなく、少しずつ前へ移動できる。今まで何を恐れていたんだろう。それともやはり前方左側は人口密度が高いのだろうか。 車道にはみ出したすすきにハンドルをとられて一瞬バランスを崩す。危ない危ない、少し気がゆるんでいたかもしれん、と思ってふと心拍計を見ると負荷に見合わず140bpmを越えており、究極の緊張状態にあることを示していた。今なら転んでもたぶん痛みは感じない。 前方1/3付近までポジションを上げ、そこからは僕のスキルでは前へ行けなくなった。そして早くも与那へとやってきた。 普久川ダム上り(起点から頂上まで7.7km) 2つのコーナーを慎重にクリアしながら上りへと入る。まず大きなハードルは例の車線規制だ。右端を走っていたので幅寄せされて行き場を失うことを恐れたが、この状況を把握していた人が多かったせいか、特に混乱なく若干のスローダウンで通過できた。 流れに乗ることを意識しすぎず、自分の考えるペースで走ったが、先頭はまだすぐそこに見えている。すでに前方に居ると思っていた飛田さんが後ろからやってきた。力があれば、ポジションを上げていくのに遅すぎることはないなと思った。 当然ながら徐々に辛くなってくる。ぐぐっとキツくなるポイントでギアが不足し早速ダンシング。スプロケ23Tの選択は正解だったか、まだまだ判らない。 小村君と二郎さんは当然先頭集団にいる。浅倉さんは後ろにいて姿を確認してない。作戦なのか限界なのかよく判らない。 相当な人数が居るトップ集団から徐々に離れだした。客観的にみて暴力的な速さではない。このスピードに着いていけないのはやはりガッカリなレベルだ。ホントに微妙な速度差なのだが、出力特性上、捨て身で頑張っても結果はほとんど変わらない。今回は100位以内目標と決めており、それは大田原の分を取っておけよという戒めの意味も含まれていたため、これでいいのだと納得して上る。途中で綾野さんが腹ばいでカメラを構えていた。毎度ながらつまらん被写体で申し訳ない。 ![]() ようやく頂上通過。19分55秒はたしか以前もそんなもんだった。湖まで降りて補給所を無補給で通過。長い下りへと入る。 〜奥〜与那 ここからのクネクネした下りは大集団が詰まりやすい条件にあり、少数精鋭のほうが比較的速い。僕と同様の希有なちぎれ組6名が結成された。だがよりによって下りの苦手な人が二人ばかりいて超遅い。それでも僅かな望みにかける。第1集団に追いつくとしたら今のうちに飛ばすしか可能性はない。フタをしている人のペースには合わせず積極的に前に出た。後ろが着いてこれなくともお構いなしで、協調性がないと顰蹙を買っていたと思うが、Maxでも70km/hしか出てないのでこれでも絶対レベルとしては遙かにショボいのだ。おまいら腹決めてついてこいよ! やはり6名ともなると誰一人としてサボることは許されず、また休みたいという人もいないようで、平地では比較的スムーズにローテーションが回る。やや問題なのは一人のガイジンで、ローテの意義を全然解さないかのような無頓着な走りだ。加えて、時計回りのローテをしている。だがここは日本であり、日本の道路事情があろうことを察しないほどのバカではなかろう? 奥の上りも先頭で引っぱる。グルペットとしての掟を破る? そんな安泰なレースを今の時点からするつもりはない。そもそもわしはグルペットとは思ってない。もしトップ集団についていたら、この場面はもっとしんどかったはずだ。まだ序盤なんだから速く走る意識を持ち続けよう、と言いたかった。一人遅れているのを頂上手前で確認し、懺悔のつもりで彼のところまで降りてブリッジ役を務める。一致団結する意思を示したかったのだが、彼には余計なお世話と映ったみたいだ。 こんな序盤の段階から、積極的にチームプレイで走ったことは過去のレースではなかったかな。苦しいけど楽しい。 と思っていたら、辺戸岬あたりで巨大第2集団(第1集団5-60人ほどがその後いくつかに分裂したかどうかは知らないが)に追いつかれた。ああやっぱりなとガッカリする反面、やっと楽になったとホッとする。浅倉さんも含まれていて、安心感も強い。ゴールまでの道はこれで保証されたと感じた。 一気に4-50名に増えただろうか。いや、もっと多かったかもしれない。東海岸追風爆走区間を6名で走るよりも効率がいい。 だが、期待したほど速くない。先頭を走るメンツはだいたい決まってしまう上に、まあよくあることだが、うまく回ってない。人数が多いと逆に役割も曖昧になってしまう。一つよくわからないのは、延々引き続ける人の存在。結果的にはこの人が集団スピードを下げ、せっかくの恩が仇となっている。手信号で後続に直接促すなり、明確にスローダウンするなりして簡単に交代可能だと思うのだが、それもしないで苦しい顔で引き続けるのは本望なのだろうか。 あるとき、先頭交代が行われずに30km/h台にまで落ちて一向にラチがあかない状況になり、しびれを切らして右から前に出る。番手が例のガイジンなのだ。臨機応変にアクション起こさない近くの奴にも腹が立つが・・・。 今までの鬱憤もあり、思わず彼に向かって叫んでいた。「ちゃんと回して! ローテーションしてよ! ロー テー シォーン わかる!? 意味ワカルwww」 青い目のガイジンに英単語をレクチャーしている自分が終いには可笑しくなった。ホントに通じてなかったかも。 恐らく彼に悪気などは無く、単に無頓着なのだ。うぜーな日本社会は、オレの好きにさせろよ、などと思っていたかもしれない。 ![]() 頻繁に道路工事区間があらわれ、右へ左へとクランク走行が増える。今日が雨のレースだったらと思うとぞっとする。前々で走っていてよかった。ここまでを大集団で通過する100kmの部の人たちはさぞかし怖かったんじゃないか。 集団効果はイマイチ発揮されないまま、再び与那へとやってきた。 2回目の普久川ダム上り 30人強の集団中程から上りへ突入する。 もはや今となっては第1集団は遙か彼方。残念ながら気にかける対象ではなくなった。いわば僕にとっては現在この集団でのロードレースが新たにスタートしたようなものだ。 脚力の判っている人たちと上るのは気が楽だ。 優勝狙いの人にとっての上りはこんな気分なのだろうか、などと想像する。 そうは言ってもちょっとペースは緩いかもしれない。繰り返すが、第1集団にもし残っていれば負荷は雲泥の差であろう。あいだを取ってもう少し頑張ってもいいのでは、と考えることはよくある。だがこの集団での戦いへと仕切り直した僕にとって、ペースをあげて人を絞ることに明確な目的を見出せず、1本目同様かえって後が辛くなるかもしれない、と打算的な考えが台頭してきた。 浅倉さんも「遅すぎるでしょ〜」と不満を漏らし始める。 だが中盤を過ぎる頃から、マッタリでもダメージが来ていると感じ始めた。案外このペースに救われていたかもしれない。 頂上通過は21分55秒、過去の自分と比較してもやはり20秒前後遅い。競技人生としての進歩がないどころか後退している、と落胆する瞬間である。 補給ポイントでは、空の水ボトルを捨てて新たに水ボトルを一つ取った。もう一つのMDたっぷりコーラは序盤にうっかり摂りすぎたため1/3くらいまで減っているが、ハイカロリーなのでまだ価値はあるとして、ジェネラルの薄いスポドリへの交換はひかえた。 高江の上り〜平良〜慶佐次 ダムからの長い下りは浅倉さんの存在感が光る。辺戸岬で追いつかれたのは浅倉さんの貢献度が高かったのではと想像できた。最短のインコースをついてロス無く下るのがうまい。僕もこれまでの集団下り速度の遅さには不満が募っていたので、正当性を示す人が現れてよかったと思った。 そうは言っても僕で70km/h以下であり、依然として絶対レベルは低すぎる。 集団は15人程度に絞られている。 高江への上りはこれまたゆっくりだが、その印象と実際の負担はイコールではないと判ったので、おとなしく走る。2007年のレースではこのあたりから小集団を抜けだし、最後まで寂しく単独走を続けた挙げ句ゴール直前でその集団に追いつかれるという失態をしており、ビジョンのない先行は避けようと考えていた。 その代わり下りは遠慮なく飛ばした。下りに積極性のあるメンツも増えていたし、様子見走りになるとすぐ浅倉さんがバビューンと脇からパスしていくのであった。 市民100kmのかなり遅い方たちがコース上に点在するようになった。まだ30kmほどしか走ってないのに超ヘロヘロで、坂道を走る体験は今日が初めてですか?ってくらい。ほとんど止まっている存在のため存在に気付くのが遅れ突っ込んで落車する人もでてきた。僕も一度だけパニックブレーキをかける羽目に。結構危ない。 そんなおり、一人彷徨うように走っていた国際ジュニアの選手が140km生粋集団に乗っかってきた。 彼は仁義を果たすつもりなのか、積極的に引くメンバーの一人となった。タレずに長々と引くことも多く、さすが国際、と頼もしい。ルール上好ましくはないが、集団を活性化させ緊張感を維持するのに一役買う存在となり、ありがたかった。 僕としては元気のある数人で抜け出してもっとペースを上げたいと思っていたので、時々思わせぶりに出てみたり先頭の選手に加勢して誘い出しをはかったりしていたが、次の展開に持ち込めずにいた。この元気な国際ジュニアを誘い出せば、逃げも決まるのではと企んでいたのだが、考えてみればそんな勝負に絡むような走りはあえて避けるだろう、彼のことなら。 しばらく平坦路が続く平良へと入る。海岸沿いの緩いカーブを走っていると、遥か前方に15人ほどの集団が見えた。あれはまさかの140km? とすればかつての第1集団の千切れ組に他ならないので、この距離でも追いつく可能性はある。ペースを上げる目的が出てきた。 平地が終わり、上りを一つ越えた慶佐次付近だったか、140km集団をパスした。さきほど遠目に見た集団だったかどうかは判らないが、15人くらいも居て結構大きい。当然彼らの多くは連結してきたが、上りに入ったところで「はいはい上げすぎないでペース守ってね」などと仕切り役らしい人から忠告が入る。悪いが君らのペースに合わせるつもりはない。 補給所ではスポドリ2本と取り替えた。暑さよりも、低ナトリウム血症対策のほうが急務だった。MDたっぷりコーラも二つのジェルも朝バナナも全部平らげ、袋入りの電解質タブも空だった。しかし、至る場所で太腿が攣りはじめており、水ではない何かが必要だった。そういえば梅チューブがあればよかったな。 有銘〜安部〜羽地ダム 去年から新しくなったコース区間へと入る。ここからはトップチューブに貼り付けた高低図が思いのほか役に立った。 上りに入って自然と数人が抜け出し、僕も流れに乗る。これまでも似たようなパターンがあったが、今回は上りが長いせいか、それともそろそろ本気で逃げを画策しているのか、集団から徐々に離れていく。痙攣が起こりやすくなっており、あまり無茶な走りは続けられないが、一気に逃げ切るような脚は誰にも持ってないことは判っているため、周りを気にせず自分のペースで黙々と上るうちに一人になった。後ろがなにやら賑やかだなと思っていたら市民210kmの先導車だった。つづいて黒いオーラを放った高岡選手が一人で上ってきた。今回、210kmはスタート時刻が随分後ろへシフトしたため追いつかれることは無いだろうと考えていたのだが、もう来ちゃったよ。 自分との速度差はそんなにあるようには見えない。もしサラ脚だったら着いていけそうにも思える(さて実際はどうだか)。だが実はこの辺りで後続大集団と5分以上差をつけていたらしい。いかに210kmがサバイバルレースであるかを実感する。 一旦下ってまた上り続ける。調子が出てきてさらにスピードを上げた。後続集団はもう視野内に捉えられない。ダンシングで一人ガシガシ走っていると、目の前に黄色のウェアが見えた。あれは誰だ? 僕のシナリオでは物見山ジャージは遭遇できないことになっているが・・・。無謀な走りをして燃え尽きた小村君、でもなさそうだ、となると二郎さん? マジですか! 調子を上げて加速していたのはひとえに二郎さんに追いつくためであったかのようだ。 横に並んで声をかけると「あれー追いつかれちゃったよ〜」と素なリアクション、有難うございます。 峠を下り、しばらく平地区間へと入る。いつの間にかまた浅倉さんがいる。 折角上りで逃げを打っても、浅倉さんが下りで飛ばして後続を全部引き連れてきてしまう、というパターンはこれで何回目? 浅倉さん、次こそは上りで一緒に上りましょう。そうでなくても一人で下ってきて下さい。頼んます。 TDOで二郎さんと並んで走ることになるとは思わなかった。何かの理由で先頭集団から千切れ、戦意喪失していたのだろう。新たな動機付けが現れたことで盛り返してくれるに違いない。再び本気を出してあっという間に切れることも考えられるから、心してかからねばならないが、浅倉さんと3人でゴールへ向えば怖いものナシだ。 などと考えながら、平地を集団で気持ちよく走っていると、ふとローテが回ってないことに気づく。ハイちゃんと回してないの誰? と振り向くと、中切れを起こしているのは他ならぬ二郎さん。なぬー! まさかもう終わっている? 最後の100m超の坂道へと入る。ここで自分を含む常連の4人が抜け出した。さていよいよ本日のハイライトのご開帳かぁ? 一人がさらにペースを上げ、一人が喰らいついた。今度こそ本気度を感じる。攣りそうになっていた僕は、どうせまたいつのまにか合流しているさと二人を見送ってしまった。疲労もMaxに達しており、状況判断が著しく鈍っていたのかもしれない。すっかり見えなくなるまで離され、おいおいこのままでいいのか? と追走の意識が芽生え、遅れたもう一人と一緒にペースを上げる。 今回のレースで今更ながらの発見があった。残り少なくなった体力でスピードを落とさず走り続けられるギア比とは、体感的に適性と感じるギアより1枚重くする、というものだ。あえて、微妙に重目なギアで行くのだ。これはセオリーとは逆ではないのか? 攣らないためにもそのほうがよかった。 よって25Tが無いことは今や問題にならない。従来の源河よりも緩やかなことも幸いした。 一時は諦めかけていた前方のターゲットが近づいてきた。ここは踏ん張りどころ、と半ば攣りながらもダンシングで一気に追いつく。下りに入りかけるところでもう一人も必死で追いついてきた。 コースを熟知しているのであろう一人が高速ブラインドコーナー手前で路面注意の手信号を我々に出してきた。果してそこにはタイヤがはまりそうなグレーチングがあった。この4人でゴールまで戦い抜こう、と気持ちが一致した場面だったように思う。 峠を下り終えると、名護のゴールまでほぼ平地が続く。ここからの高速平坦区間は従来コースのおよそ半分になったため、その間に後続大集団に追いつかれる心配も減った。だが油断は禁物、4人できっちり回していかねば、とのスタンスで全員一致している。 名護バイパス〜ゴール 国道58号バイパスへ合流する手前で一人の国際女子100kmの選手をパスする。この選手、かなりの曲者だった。 直後に僕が先頭から降りてくると、ケツにはその女子選手がピタッとついていた。 構わず僕が4番目(彼女の前)に付こうとすると、それを手で制し、自分の後ろに付けと言ってきた。むむー、ルール違反もお構いなしの、図々しく自信過剰な奴、部門ではドンケツに近い分際だが、まあそれもよかろう。 ところがである。 国道へ入るカーブで、4人のうちの一人が抜け出した。単なる揺さぶりか一人逃げするつもりなのか微妙なところだが、筋肉質タイプの選手であり平地の独走力はかなり高そうだ。なぜか一気に離されてしまい、これは本格的にヤバイと気付き始めたが、追走組の先頭は疲れてタレはじめている。ところが、彼の番手は例の女子選手、つまり全然先頭交代しないのでずるずると離されてしまったのである。この大事な局面で何やってるんだ! 俺たちのレースを邪魔する気か! のうのうと走りつづける彼女の横に並び、「回せないんなら混ざるな!」と叫んで追い払った。彼女改めクソババーは恐縮するどころか何やら言い訳がましいことをまくし立ててきたが無視し、そのまま頭に出て離された彼を追い続けた。50m程は離されていたがブリッジは何とか成功し、再び4人で回し始める。 それだけでは終わらない。 飛び出した彼は僕らに追いつかれたことで後ろに下がった。そう、クソババーの後ろに。あれほど言ったのにまだ混ざっている。 そしてクソババーは僕らからちぎれていき、ロケット切り離しのように彼も一緒に大気圏へと落下・・・。南無〜。 女子レースの世界は陰湿で卑劣で狡賢くて仁義の欠片もない、と某女史の嘆きを聞いたことがあったが、その一端を垣間見た気がした。残念ながら、スポーツとは人としての成長を何ら促すものではないのです。50にもなろう彼女が生き証人です。 やがて千切られた彼も再び復帰し、4人が均等にクソババーの煮え湯を飲まされたところで、さあ仕切りなおしだ。 高速で回していくうちに、当初飛び出した彼と僕が僅かに余力があることを感じ始める(あくまで主観だが)。記憶ではたしか上りで遅れた二人だから、平地向きと上り向き、ということかもしれない。だがヒルクライマーもきっちり引きはこなす。ゴール5km手前のプチ上りはやはり一瞬優位性が入れ替わったが、その後もまた平地なのでここでどう足掻いても仕方がないことは判っており、決定打は何もなく過ぎる。 市民200kmの結構大きなトップ集団(2位争い)がゾロゾロとパスしていった。だが集団のケツに一人が付き始めたので、彼の前に出て手で制す。「我々だけでフェアに戦おう」 彼も納得したようだった。 後ろを振り返り、遠くまで浅倉さん集団は見えないことを確認。ここからは安心して4人勝負を楽しむこととしよう。 ゴール手前2km弱も2年前からコースが変更されており、それを知ったのは不覚にも昨日。そうでなくてもスプリント力ゼロの自分にとってここからは全くのテリトリー外であり、もし勝算があるとすればロングスパートしかないだろうと思っていた。 ドキドキしながら市街地へ左折して入った。 試しにスパートをかけてみる。このZIPPセットはこういう場面で最もアドバンテージがあるはず。8割くらいの出力に留めたが、逃げ切れそうな感触をちょっと得られた。さらに加速してあと1.5kmこのまま行くか、としばし迷ったが、やめてしまった。 ![]() このまま人の後ろで走り続けて負けたとしたら絶対後悔すると思い、誰よりも先に自分がスプリントをかけねばと考え、残り500mの看板を過ぎたところで早めに前に出る。律儀に僕はここで「前に出ます、今から行きます」という無言のメッセージを残してから加速した。後で思えば普通に巧妙さをもって「仕掛ける」べきだったが。ゴール手前で失速しないようにじわじわと加速、空気抵抗を最小にしたかったのでダンシングはしない。振りきらなくていいからツキイチでもきついくらいのスピードを維持する勝負に出た。 筋肉質の彼が後ろについてきた。そして横に並ぶ。二人の勝負となった。本日最大のパワーでぐいぐいと踏む、脚がバラバラになりそうだ。 しかし、刺し返されてしまった。2番手でフィニッシュ。 まあ僕としては及第点のスプリントだったかな、と思ってそこそこ満足。 後で考えてみたら、その気になっていたのは僕だけで、他の二人は遠慮して見送ったのかもしれない。 ![]() 4:23:11 46位/(トップ差15:03) 平均/最大心拍数138/162bpm 最高速度70.4km/h 自己計測144.54km 32.95km/h 完走者198人/326人中(完走率61%) 晴れ 25℃前後 微弱風 3146kcal 獲得標高2000m アクチブに引き続けた割に、過去のレースと比べると平均心拍が3〜9低いのはやや意外。最大心拍も低めでJCRCレースレベル。もう少し火事馬鹿力を発揮する場面があっても良かったかもしれない。 ゴール以降 ゴールと同時に脚全体が攣り始め、引っくり返るところだった。 やがて浅倉さんと二郎さんもすぐやってきた。何はともあれ無事レースが終わって嬉しいけれど、さりとて二人にかける言葉が思い浮かばない。 途中で140km集団をごそっと抜いたことで、順位は結構上がったかもしれないと考えていたので、46位と聞いて正直少し残念だった。つまり最初の第1集団のサイズは予想以上だったようだ。これに乗れるか乗れないかで運命は大きく二分されてしまう。 とは言え、100位以内という目標は十分すぎるほど達成できたのでこれでいいのだ。 トップ集団のゴールスプリントに絡んだ小村君だったが、不本意な順位にかなり不機嫌になっていた。平凡な順位でも満足げで平穏な僕の顔がさらに癪に障るらしく、可笑しかった。若いっていいなあ。 少し休んだらすっかり脚の状態も元に戻った。今すぐにでもジョギングに出かけたい気分、試しにちょこっとだけその辺を走ってみると、すばらしく絶好調。何だこの調子よさは。ロングトラのランスタート時より遥かに軽い。だが多分走ってみれば3kmと続かないのかもな。 起床時は憂鬱になるほど酷かった喉の調子も今は殆ど問題ない。レースでは全く関係なかった。吹っ飛んでしまったかもしれない。 レース後、様々なB級グルメの出店で腹や喉を満たしたり、芝生で寝転んで開放感に浸る楽しみは、去年から既になくなっており、殺風景な駐車場が会場となった今ではごろんと横になることもままならない。とっとと撤収してホテルに帰ったほうが良さそうだ。なんて味気ないんだろう。 シャワーを浴びた後、日が沈みかける頃みんなで受付会場へと出かける。狭っ苦しく落ち着けない会場テントで供給された豚の角煮汁と発泡酒を腹に詰めたら、やることがなくなった。一頃の1.5倍に跳ね上がった参加費はいったいどこへ落ちているんだろう。 毎年恒例の大打ち上げには流入せず、物ポンズでこぢんまりと小料理屋で打ち上げ。ディープな郷土料理と三線の生演奏を味わうことができた。大賑わいなのもいいけど、僕はやっぱりこういう落ち着ける雰囲気が好きかな。 翌日は喉の調子も少し回復し、那覇の首里城を見学する。前に来た時は建物の一部が工事中だったが、今回は中をじっくり見て回った。筋肉痛は極めて軽く、例年よりダメージはかなり低い。 陶器に詳しい浅倉さんのレクチャーを受け、人間国宝の金城次郎系統のお土産を買っていく。トレードマークのような魚の図柄が気に入った。 3年前にも来たことのある国際通り近くの料理屋に寄って帰った。 総括 今回もまあ、いつもと同じような順位で終わったわけだが、その平凡なポジションのなかにも、それなりにレース展開がありドラマがあって、それを楽しむということでいいではないか、と初めてしみじみ感じることができた。トップ集団に居なくても、走らされているのではなく自分がレースを作っているという実感を得ることができたし、ロードレースらしい走りをフルコースで楽しめた。今までのTDOのなかで最も充実していたように思う。 完走者全てが勝者と言われるトライアスロンとは対極的に、自転車レースにおいては1位至上主義とでも言ったイメージが自分の中にも色濃くある。でもそれって、なまじ格上の選手にもついていけてしまう競技性ゆえに錯覚を起こす、むしろ思い上がった発想だったのではとふと思った。 優勝狙いでマラソンを走る人なんて、ホントにごく限られた人だけだが、こと自転車においてはどうだろうか、というわけだ。 ひたすら喰らいつくだけが使命ではない。これまでは言い訳にしか聞こえなかった言葉だが、今後はもう少し視点を変えてみてもいいかもな、と思った。 |
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