2013五島長崎国際トライアスロン大会参戦日誌
2013/6/23
Swim 3.8km Bike 180.2km Run 42.2km

6月21日(金曜日)
早朝5時ジャストに自宅出発、羽田へ。今回初めて自転車を事前送付したので身軽だ。
空港で早速篠崎君に逢う。福江行きの飛行機を取ったらしい。そうかその手があったか。
急接近してきた台風4号によって、昨日から福江島へ渡る航路はすべて閉ざされていた。今日もジェットフォイル第3便までは欠航が決まっており、不確定の第4便はすでに近ツリにおさえられている。福江へ渡る手段は今のところ最終便のフェリーに望みを託すのみ。
朝一のソラシドエア(かつてのスカイネット)に乗って長崎へ。1万円以下で飛べる時代になったので、宿泊付き格安航空券を買う必要がなくなった。ただこのソラシドエアのサービスは値段相応だった。指定振込日を過ぎると自動キャンセルになるとか(予約して1ヵ月後くらいのわずか三日間程なので試されているとしか思えない)、出発日が近づいても何の一言も無いとか、手厚いサービスに慣れた日本人には心許ない。ホントに予約できているのか確認もできず、当日搭乗券が出てくるまでドキドキだった。

台風がまさに直撃しているとは到底思えない、穏やかな海を眺めながら、飛行機は長崎へと降り立つ。機体を出た途端ムワッとして異国のようだ。いやそうじゃない、これが日本の標準的な夏だ。どうやら僕は関東の涼しさを当たり前と見ていたようだ。
nagasakiとりあえずは長崎港へ行くしかない。第4便、16:50発のフェリーの運航が決まるのは午後3時半頃とのことで、それまで暇つぶしに長崎観光。不足はあろうはずがない。大きな荷物はロッカーに入れて、オランダ坂経由でグラバー園へ歩く。平日の為か空いていた。ボランティアガイドの白髪のおじさんが親しげに、「五島へ渡れなくて大変だね」などと僕らの事情を既に知り尽くしているかのように話しかけてきて驚いた。「でも台風は消滅してただの低気圧になったからフェリーは出るよ」。情報が早い。
見学の途中、フェリーのチケット販売開始が午後1:30からに早まったらしいとの極秘情報がじょ〜さんから入ったので、路面電車を使い港へ戻る。今日中に五島へ渡る確約が取れ、ようやくホッとできた。出島ワープで昼食後、近くの夢彩都(ゆめ・サイト)やコンビニを回り、エネルギー系ゼリー(=レースの補給色)を捜し歩く。夕方ようやく乗り込んだフェリー「椿」号は最新型で、東海汽船とは比べ物にならない快適さだった。沖へ出るとやはり台風の影響が多少はあるのか結構揺れ始めたので、船酔い回避のため寝ることにする。午後8時の福江到着までうつらうつらとずっと寝ていた。
後で聞いたところによれば、波が高いためジェットフォイルは浮上できずに低速でゆらゆら走ったらしい。浮上しないジェットフォイルの揺れがどれほど拷問かはよく知っているつもり。つくづく、乗れなくて助かった…。

島でこの時間、開いているのは飲み屋系。数軒探して、なぜか大阪お好み焼きの店へ。ソース味が強すぎたのがやや残念。物足りないのかコンビニで買い足してホテルで食べる。今回の宿であるラウンドインは、網戸が無い点を除くととても快適だった。

レース前日(土曜日)
バイクを組み立ててまずは選手登録へ、会場の場所など以前と変わらない。途端に緊張感が湧いてくる。
じょ〜さんの提案に乗ってバイクでランコース下見へ。まずはトランジッションの外濠公園にてバイク下車ポイントをチェック。以前と同様、下車と同時にバイクを係員に預ける。このスタイルは人員を要するので大会としても大変だと思うが、Ironman品質が継承されている。着替えテントを出てバイクラック脇を200mほど走る区間はまだトランジット区分で、ランスタートはその先のゲートからとなるようだ。そのゲートはランで都合3回通り、周回の起点にもなっている。

ランは約7kmを3往復するコースだが、ポイントは片道2か所あるコブのような上りだ。ひとつ目が30m、二つ目が20mほどのコブ高さで、見たところ斜度は最大7%ほどだろうか、想像以上に手ごわそうな「坂」だ。これは歩きが入ることを覚悟しないとな、と思う。2つ目の坂の先は緩やかに下り、若干上り返しもある。折り返し地点は内海沿い、つまりほぼ海抜0mってことで、往きも帰りも上る量は一緒。Aタイプでは合計12回コブ坂を上り、獲得標高は330mほど。過去参加経験のあるどのフルマラソンよりも多い。Japan時代のランコースも十分走り応えがあったが、なぜさらにきついコース設定にしたんだろう、そういう声が多いのかなあ〜?
走っているうちにいつしか怠くなってきた。じっとり暑いのだ。これが夏の暑さか。ラン3時間40分の目標はまず無理そうだと思う。それどころか4時間も切れなかったらどうしよう。さらに暑くなればどうなるか分かったもんじゃない。

文化会館前の居酒屋で五島うどんとおにぎりセットのカーボローディング、そして選手説明会へ。去年のダイジェスト映像が流され、やる気が湧いてきた。バイクの映像の途中で会場からどっと笑いが出る。え???今のなにが面白い??? 思わず笑うしかないジェットコースターのようなアップダウンってことらしい。望遠レンズのマジックだよ大丈夫さ。
レースディレクターを務める山本みっちゃんが「バイクコース全てを完全交通規制しているロングの大会は日本中で五島だけ」と誇らしげに言ってた。五島はレースクオリティという点において抜きん出ている。しかしそれでいて参加費3万円。これをお値打ちと言わずして何と言おう。いや、金額の問題ではないな。島全体でこの大会をきちんとしたものにしようという気概がいたるところ感じられる。もしかするとそれは真面目な県民性の表れなのか?と参加7回目にして気づいた。料理が美味しいのも、媚びたり変にセコいことをせず、正直に真っ当に作っているからではないかと思う。

ランに必須の梅チューブを買い求めて(なぜ昨日買わなかった?)スーパーを探してうろうろ。商店街にあったと思ったんだが潰れたんだろうか? 道端の少年たちに尋ね、4km先にあると教わる。彼らの距離感覚の正しさに驚きつつ、島国らしくない大型商業施設「City」発見。暑くて思わずアイスを買う。
しかし、このたかが往復8kmのバイクで大分疲れた。あぢ〜〜〜〜。大丈夫か明日は?

夕食は小金井トラの方々と早めに港の人気の定食屋「うま亭」へ。エビフライ定食とちゃんぽん(カントクと半分っこ)で腹は満たされた。コンビニで明日の朝食を買い込み、宿では9時前に就寝。準備万端だ。


レース日
ホテルだと早起き好きな選手の物音に起こされず快眠できるのがいい。3時45分起床。
おにぎりを無理やり詰め込み、4時半にホテル出発、5時頃のバスで富江港へ向かう。この流れも従来と変わらない。変わったのはスイム会場。波の影響を受けにくい港(富江港)を泳ぐことになった。会場もコンパクトにできていて従来より落ち着いて準備できる。
見る限り波は無く、極めて穏やかだ。これは従来より遥かに泳ぎやすく、タイムも良くなりそうだ。水温は十分高く、寒さの心配はゼロ。ロングジョンでも良かったかもしれん。なんせ、このシロモトのフルウェットは至る所破れている。

スタート10分前、海の中にあるスタートラインへの移動を許可される。しかし多くの人はなかなか移動しない。あれ?どうしたの? フローティングで体力を使いたくないってことか? 以前はそんな消極的な人たちは少数派だったのに。
おそらく速い人はそんなに居ないだろうから、遠慮せずほぼ最前列へ行ってスタートを待つ。恒例の雄叫びが数回上がるが、そういう体力は温存する派。

7:00 a.m. Aタイプスタート
さすがに最初はごちゃごちゃしている。不可抗力的に左側の男に乗り上げてしまった。すると彼は体制を整えたのち意図的に僕の肩を掴み、ぐいっと後ろへ引っ張る。すなわちあからさまに報復してきた。何だこいつ。キックで応戦したろかぁ? いかんいかん、初っ端から変なスイッチを入れちゃいかん。
久しぶりの3.8km、最後までスタミナが持つか若干不安があるため、決して無理しない。前方に十数名程度が見えつつも、追いつくことは出来ず、早くも一人旅となってきた。位置的にはそんなに悪くないはず。落ち着いて、普段通りの力がきちんと発揮できるように泳ごう。
海は予想より濁っていた。直前まで台風がかき混ぜていたから仕方がない。前方選手の存在を水中から確認することはできない。あまり人をアテにせずに泳ぐだけだ。
ベタ凪の予想は外れ、徐々に波が高くなってくる。まあ僕としてはスイムは過酷な方がありがたい。スイムを苦手とする人はタイムがぐっと悪くなる(相対的にこのほうがありがたい)。せこい考えですね。
変則L字型に泳ぐコース、前半はコースロープを右ブレスで確認できるが、後半は左側に来る。僕は左ブレスをしないと決めているので、コースロープによる進路確認はあきらめ、前方に見える曲がり角の巨大ブイをひたすら目指すことにする。今回のコース設定では、律儀にコースロープに沿って泳ぐと遠回りになるため、そのほうが向いているはずだ。
特に問題なく1周目を終えていったん岸に上がり2周目へ。カントク見てくれているかな。
1周目で離された人といつしか一緒に泳いでいた。ペース的には悪くないようだ。2周目は3人とつるんで泳ぐ。肩を借りるというよりは競るような感じで。
人がまばらで、水は濁り、コースロープは見えない。ヘッドアップが必須だ。4ストロークでブレス+ヘッドアップし、微妙に力むために次は2ストロークで1ブレスを入れる。つまり6回に1回のペースで前方確認する。効率はあまり良くないと思うが、昔からの僕のやり方だ。
カントクが通うスイムレッスンでトラのプロからヘッドアップ法を教わってきた。それによるとヘッドアップをブレスの前か後に入れるのではなく、ブレスとブレスの間に行うとのことだ。それを聞いたのが昨日だったので、本番でいきなり試してみたのだがどうもうまくいかないのでとっとと諦めていた。
ところが、フィニッシュまであともう少し、というところで突然閃いた。ああこうするのか! 利点も見えてきた。ヘッドアップ後2ストロークでブレスとなるので、息が苦しくなることもなく1ブレス/4ストロークを維持することが可能となった。ブレスを増やすとスピードが落ちるのでできれば4ストロークを続けたいのだ。
都合よく閃いたのも、フィニッシュへ向けてラストスパートしていたからだが、それにはわけがあった。ミドルBタイプの選手がまだスタンバイ状態にあるのが見えたためだ。BスタートはAの1時間後の8時と勘違いしていた僕は(本当は8時10分)、1時間を切るタイムで上がれそうだと喜び、さあ僕が着くまでスタートしないでくれよ、と祈るような気持ちでフィニッシュゲートを目指していたのだ。新しいヘッドアップ法を習得して。
ノリノリの気分でスロープをあがり、ちらっと計時を見ると、1時間6分台? 頭の中はパニック。どういうこと???
目標より4分遅く、誤差の範囲を超えている。蛇行した覚えもないし、どうなってるんだ!

swim3.8km1:06:55(14位) HR117/127 推定700kcal
どうやら遅かったのは自分だけではなかった。昨年も参加しているトップ選手の記録から類推すると、僕のレベルでおしなべて5分ほど遅く、距離が長かったとみてほぼ間違いなさそう。ただし昨年が公式距離に等しかった保証もない。

靴下は履かず、シューズはバイク固定なのでトランジッションでやることは少ない。ウェットを脱ぎ、ヘルメットとサングラスを装着、補給類をポケットに入れた程度。

8:09 a.m. バイクスタート

バイクにまたがり走り出したところで、昨年のエイジ覇者鈴鹿選手がスイムから上がったとのアナウンスが聞こえてきた。自分のスイムはさほど悪くなかったとそこで直感。Bのエリート組篠崎君から応援をもらう。ありがとう。

とにかくピアノピアノで。過去のIronmanだとここでズバズバ抜かれ焦るが、やはりそんなにハイレベルな選手はいないので今回は2,3人に抜かれた程度。ほとんど前後に誰も見えないさびしい一人旅が続く。
特にドラマは無く、1周54.5kmの周回路へと入る。Aタイプはここを2周、Bは1周する。
天気予報に反して雨がぱらついてきて、涼しく、エイドにはほとんど寄る用事がない。エネルギー系ジェルを4つ入れたマイボトルひとつで走り続ける。
まだ二桁台の距離だがすでに脚にひきつったような違和感が出てきた。ポジション出しが上手くできてないことによる疲労、といった印象だ。DHポジションを長く続けられなくなってくる。まだまだ練習が足りてない証拠だなと思った。
それでも今回はできる限りDHポジションを維持するよう言い聞かせた。小金井トラ練で実感した教訓だ。空気抵抗軽減を第一に考え、気分転換のダンシングは避け、じわじわ淡々と踏み続け出力にムラが出ないよう心掛ける。それが結果的に最も速いのはデータで出ている。今日もそれを信じて。

80km地点でスペシャルニーズボトル(預けたマイボトル)を受け取った。最初のボトルと合計で約1300kcal分のエネルギー。ロングレースは僕の場合でトータル7000kcal弱消費するため補給としてはまだまだ足りないのだが、これ以上の摂取はなかなか難しい。エイドではカリウム摂取のためたびたびバナナを摂る。
その直後に小雨から土砂降りに変わり、サングラスをしていても雨粒が目に入ってくる。予報では全然言ってなかったが? 応援の人にとっては最悪だが僕としてはありがたい。
その激しさにしばしレースの緊張感が抜けて、様子見の走りになった。そのタイミングで一人追い越される。Kestrelのバイク、昔愛用していたブランドだ。今はすっかりデザインもロゴも変わってしまい興味を失ったが、それなりに思い入れはある。
遠巻きに彼を見ているうちに、徐々に調子が出てきた。おそらく追い風条件も手伝ったのだろう。DHポジションがしっくりくるようになってきた。これだ、この感じだよ。やればできるじゃないか、と調子づく。
やがて小雨に戻り、周回路2周目に入ると、Bタイプの選手の最後尾を追い越した。長い上り坂を僕より遅いケイデンスで上っている女性がいたので「まだギアがたくさん余ってるよ!」と声をかけておせっかいを焼く。
そこから順にBの上位へ遡っていく作業。気になるのはカントクのポジションだ。カントクの年代は3人しか出てないので完走すれば年代別3位以内であるが、だからこそ1位を狙いたい。他の二人のゼッケンは調べておいた。早々に一人目を追い越す。うむ、ライバルはもう一人に絞られるようだ。
100kmを過ぎたころ、そのゼッケンの女子を発見。よっしゃカントクは今トップ独走中だ。しかも結構疲労感が窺える。
そこから30kmほど走り、再びスペシャルニーズのエイドにさしかかる少し手前の上り坂でカントク発見。かなり差をつけているので、トチらなければゴールまで逃げ切れるだろう。横に付き、「いい位置にいる、落ち着いて走り、レースを必ず成功させよ」と告げる。
やはり1周目と同じところで土砂降りに見舞われるが、問題なく2周目をクリアした。
後に調べたところ周回路のタイムはそれぞれ
1周目 1:41:23
2周目 1:41:41
とほぼ差がない。過去のアイアンマンと比べても見事に同じだった。順調に走れていたことが伺える。
二本楠交差点を左折し、周回路を離れた。ここからすぐ現れる上りは結構堪えることは、過去のレースで心得ている。
上り坂でとある選手に追いついた。彼には見覚えがある。レース序盤から中盤に至るまで、一人の外人選手にベッタリ貼りつく彼の姿を後ろでしばらくの間眺めることとなった。マーシャルも気が付いて追いかけたようだが、うまくごまかしたらしい。彼は上りが遅く、外人に離されそうになりつつも必死で食らいついていた。ショーもない奴は世の中に一定数居る。その彼が、とうとう外人から切れたのだろう、一人で走っていた。こうなると彼に力はないはずだ。気にせず追い越す。上りなので一気に差が開いた。
ところが、上り終えたあとの長い下りで追いついてきて、ぴったり着かれてしまった。仕方ないので車上トイレタイムにしたり、ありえないほどのんびり走る。要するにお前の魂胆は見え透いていると走りで示したのだが、空気が読めない奴は困る。粘って追い越さない。そうまでして着きたいか? チームケンズ門下生としての誇りと責任はないのか?
後ろを振り返り、おいいい加減にしろと告げて彼を前へ行かせる。長めの上りが来たところで一気にパスし、下りも念のために飛ばした。こういう走りはストレスがたまるわりにロスも大きいからホントに勘弁してほしい。

周回路をクリアし福江方向へ向えばもうすぐバイクフィニッシュ、という昔のコース感覚が抜けておらず、実はまだあと35kmほどありアップダウンも続くので徐々にうんざりしてきた。ラスト20kmあたりで急激にヘロった。旧ランコースをトレースし、ここを走ることはもうないのかと感慨に浸りつつ、バイクフィニッシュ地点へ。
目標タイム5時間40分をほぼ守れたので安心した。

bike180.2km 5:41:24(14位) 10位通過 HR127/150 3567kcal 実質乗車タイム5:36:20 (ave31.6km/h)
Suuntoによれば実測177.2kmで、以前より4kmほど長くなった。なので平均速度で考えると目標を上回っている。
依然として公式距離には3kmほど足りないが。

着替えテントに駆け込む。失敗その1、タオルを忘れた! 雨水をたっぷり含んだ芝生を走った足の裏を拭けずに靴下を履く羽目に。失敗その2、ランは確実に暑くなることを考え、空のペットボトルを入れたボトルホルダー付きウェストポーチを用意していたのだが、この天候ではどう考えてもエイド間をペットボトルで繋ぐ必要はない、つまりウェストポーチも要らない。しかし、そのその小物入れにラン補給類を入れてしまっており、取り出すのは手間がかかる。というか、トランジットバッグの中を見て初めて事態に気づき、オロオロしてしばし悩んだ末、装着して走ることに。せめて空のペットボトルくらい捨てていきゃいいのに、結局律儀にゴールまで運搬することになる。
テントを出ればすでにランをスタートした恰好ではあるが、バイクラック脇の200mほどはまだトランジットゾーンとみなされており、ランスタートゲートはその先となる。

1:48 p.m. ランスタート

ダメージはあまり感じることなく走り出せている。
身体がランに慣れるまで、まずは焦らずキロ5強の余裕を持ったペースで走ることを心掛けた。徐々にペースをキロ4分40目標まで上げていく。
片道7kmを3往復するランコースは、途中2か所の標高差25〜30mほどのコブ坂があり、トータル12回上ることになる。7%程度の結構な傾斜なのでスピードを維持したままクリアするのは無理。ペースダウンは想定内とし、挽回しようなどとは考えない、と決めた。
早速最初の坂が見えてきた。その上り口にあった仮設トイレに駆け込み、気分転換。気になることもなくなって、さあこれからは集中して走るぞ。
初回はさほど苦も無く上ることができた。下りではスピードを殺さないように走ることを心掛ける。
ランに入ると雨がやんだが、依然として涼しいのでエイドでは水1杯を身体にかける程度で、身体内部は水分を欲しない。コーラもそれほど飲みたくはない。エネルギーを摂る機会も同時に減ってしまうので気を付けなければならないが、こんなにエイドに用事のないロングは初めてだ。
濡れた靴下がグチャグチャ奏でているのがやや気になる。いずれ豆ができるかもしれない。懸念点はその程度で今のところ順調。
AとBの選手が入れ混ざって3往復するランコースは賑やかだ。とはいえまだ周囲はほとんどがBタイプの選手で、Aはごく僅か。概ね追い越すばかりの展開で、追い越されることはほとんど無い。
対向からBエリートの篠崎君がやってきた。「やった! 勝ったよ 勝ったよ!」と笑顔で叫びながら余裕の足取りで過ぎる。すまん、意味がよく判らない。実は彼がBのトップを走っており、しかもまだフィニッシュしてないのに勝利を宣言できるほど2位を引き離している状況とは思ってなかったので、何かのギャグかと思ってしまった。

二つ目の坂は少し低いが、その先で小さな上り返しがある。右手にアジサイを眺めながら進むと、やがて湖のようにおだやかな海が見えてきて、折り返しポイントの郵便局へと来る。
折り返し後順調に上り坂をクリアし、二つ目の坂の途中のエイドにさしかかった。持参した梅味のMeitanジェルにゲホゲホとむせ返っていたら、対向のカントクに気づくのが遅れた。満面の笑顔で猛突進してきてハイタッチ。こちらが体勢を崩すほどの勢いだ。ノリノリだなあ。
バラキンのBはセミロングと言うべき結構ハードなコース。果たしてカントクは完走できるのか、正直なところ確信が持てなかったが、今の元気ハツラツさを見ればもう心配いらない。どこまで記録を狙えるか楽しみだ。
と思ったのもつかの間、カントクのすぐ背後に貼りつくように走る一人の女性に気づく。あれは! カントクのライバル。なぬー!! バイクであれほど離していたのに、今はすぐ真後ろにいる。恐ろしい速さで追い上げてきた。カントクは彼女の存在に気づいている・・・はずがない。あの能天気ぶりを見れば明らかだ。
カントクの試練はまさにここからか・・・頑張れ。

平地であればキロ4分40前後を維持し、淡々お気楽な感じで歩を進めていたが、その最後の上りを越えたあたりから身体に異変を覚え、ゴール地点の港へと戻ってきた頃に急に脚が動かなくなってきた。足首周りの筋肉が売り切れてドタドタ走りになり、今にもザコ痛で骨盤周りがグギッとなりそうになる。崩れるのが早すぎだろ?
じょ〜さん、そして小金井トラのボスであるかん8さんとすれ違う。この分だと二人に追いつけるか?
すでにゴールした篠崎君がまた「やったよ!」と叫んできた。今度こそ本当の意味が判ったよ。おめでとう! 彼の心から喜ぶ姿は僕も嬉しく、力を貰えた。
run1周目 1:09:06 (P4:55)

ランスタート時にくぐったスタートゲートを2周目もくぐる。腕には2周目を示すベバンドが巻かれている。
だがこのランコース、上りと下りがハッキリしていて身体への刺激に変化が大きいためか、ドタドタ走りがふと消えていることに気づいた。復活することもあるんだな。それに、平地ならまだキロ5を切ることもできる。
二つ目の上りをひいひいと上っているとき、また対向からカントクがやってきた。余裕のある姿を見せたいのに、こっちが大変な時に限って現れるなあ。カントクは相変わらず調子良さそうだ。あ、そういえばライバルはどうしたんだろう、と思ったら、なんとカントクより結構後ろにいる。どういうこと?
後で聞いたら、バイクフィニッシュ時点でライバルに追いつかれ(それもまた奇妙だ)、ランで一時先行されたが、僕と最初にスライドする直前で抜き返したらしい。やるなカントク。
2往復目の折り返し、つまりランのほぼ中間地点で二度目のトイレ。大抵、トイレに行くと調子が崩れるのだが、今回は逆に調子を取り戻した。どうやら少し歩いたり休んだりすることで急激に回復する要素があるようだ。
じょ〜さんやかん8さんともすれ違うが、あまり差が縮まらない。奥多摩バイク練のときのようにはいかないようだ。それとWatanukiさんとのすれ違いも気になった。前を見て黙々と走る姿は見るからに順調そうであり、奥多摩練でのブリックランがとにかく速い人だったので、逆にこの人とのスライドポイントがさほど手前にずれてないことが励みになった。
すれ違う人といえばもう一人、スキンヘッドの外人(ロシア人らしい)が上位にいたがなぜか目が合った。ムキムキで強豪エイジという風貌である。ストライドが大きく、迫力ある走りだ。ところが意外にもスライドポイントは僕の方がわずかに先。まあでもこのペースでは追いつくはずがないのだが。

およそ28km、2往復を終えたところでスペシャルニーズバッグを受け取る。預託していたのはハニースティンガーが3つ。この辺りからエネルギー不足からかめまいが激しい。
Run2周目 1:12:41 (P5:10)

3周目を示すバンドを貰う。
雨が強くなってきた。もはや身体にかける水は不要。珍しくコーラもさほど飲みたくは無いのでエイドを素通りしてもいいのだが、一応何かはとる。
全く不要と思われたボトルホルダー付きウェストポーチだが、このウェスト引き締め効果に助けられているのは確かだった。背中を広く覆うベルト部は、背もたれ椅子のような安楽さと安心感があり、骨盤の角度が後ろに寝るのを防いでくれる気がする。ロングには特に有効という気がした。余ったベルトが長すぎて邪魔なのが唯一残念なところ。きちんと短く切り落として軽量化も図ろう。昔から佐渡などではよく使っていたアイテムだったが、最近はベルトを使わずボトルを直接持ち運んでいたのでご無沙汰だった。

往路途中、32kmの看板を通過。残りは10kmちょっとだ。平均キロ6で走ればゴール予想タイムは10時間半程度と判った。まだその頃はキロ6以内は十分余裕のあるペースと見ていた。
ところが、33kmを過ぎた頃、明らかなハンガーノックに見舞われる。先ほどハニースティンガーを摂ったばかりで、特に腹減り感はないのだが、血糖値は恐ろしく落ちたような感覚で、気力もみるみる衰退していく。くらくらして眩暈が激しい。じょ〜さん、そしてニヤリとした目つきのかん8さんとすれ違う。かん8さんの目にはロックオンしたじょ〜さんの背中しか映ってないようだ。闘志を漲らせる二人に対し、僕は風前の灯といった感じで、あっちへふらふら、こっちへふらふら、かなりヤバい状態になっていた。
最後の折り返し手前で、予定を早め3つ目のハニースティンガーを摂る。あらゆる動作が鈍くなっているのか、飲み込みに失敗してむせ返り、やばい、死ぬかも、と本気で焦るほど呼吸困難に陥った。エイドの水で事なきを得、20mほどとぼとぼ歩いた。用もなくこんな風に歩くのは負けを認めたようなもので、集中の糸が切れ一気に崩れ出すパターンだ。こうなるとキロ6維持も危うい。10時間半ゴールという一つの区切りが急に遠のいて見えた。
だが、歩く事で何かが変わるかもという期待があった。
再び走り出してみるとその期待通り何かがリセットされたようで、キロ5分20前後まで戻せた。このパターンは過去のレースでは見られなかった。エネルギー供給が滞ったため動かなくなっていたが、筋肉はどうやらまだ残っているようだ。上りを含む区間でもキロ6オーバーは免れた。これなら10時間半は切れるかもしれない。再び期待が出てきた。
12回目となる最後の上りでは、奇遇にもカントクのライバルに追いついた。カントクが彼女から逃げ切ったことの象徴に思えた。今頃カントクはもうフィニッシュしているだろう。僕もここで歩かずクリアしようと粘り、坂の途中でパスする。ここでもキロ6をなんとか維持する。

ゴールまで残すところ1km。ちょっとした往復区間があり、後続選手が確認できる。およそ数十m後方にAタイプの選手を発見。これはマズイ。明らかに彼は僕の背中を執念深く睨んで追い上げてきたはず。あと1km、逃げ切れるか。
ここからの猛ダッシュは今までで最も辛い区間となった。追いつけないと悟らせるほどのスピードで走らなければならない。ああマジかよ勘弁してくれ〜苦しい〜〜。多分キロ4分10くらいまで上げたはず。というか、そんなエネルギー残ってたんか?
すでにゴールしたカントクが、ゴールへの花道の入り口で予想通り待ち構えていた。後ろにはもはや人影は無い。逃げ切り成功、安心して同伴ゴールできた。
後で知ったが、追手の存在は僕の単なる妄想だったようだ。それより、逆にそのラストスパートによって知らぬ間に一人追い越していたらしい。ランパートは周回違いの選手も入れ混じるので、直接の競争相手が誰なのか判りにくいのだ。
Run3周目 1:17:34 (P5:30)
run42.2km 3:39:21(23位) P5:12 HR136/150 2630kcal

総合10:27:40 8位/634人 HR128/150 6900kcal

二人でゴールすると、予想外なことに取材班からインタビューを受けた。二人とも上手くいったレースだったので、それを祝福されたような気分だった。何をしゃべったのかもう覚えてないけど。
じょ〜さんがかん8さんを抑えて先にゴールに入ってきた。間違いなく刺されると思ったのに、逃げ切ったよ。よくやったね。

目標タイムにはやや届かなかったが、ほぼ満足のいくレースができた。

ゴール近くの粋なお店でささやかな打ち上げ。カントク年代別1位おめでとう。

RESULT
Total 10:27:40 (Place 8/634)
Swim 1:06:55(14)  Bike 5:41:24(14)  Run 3:39:21(23)