第23回トライアスロン珠洲大会参戦日誌
2012/8/26
Type A (S2.5+B100.2+R23.3)

8月25日(土) レース前日
真夜中の3時20分、自宅を出発。去年より10分遅い。長旅のスタートだ。前夜の失敗作のおいなりさんを食べながら走る。
80km/hのエコ運転で、途中2度ほどSAで仮眠を取りつつも、順調に日本海へ出た。次回は1時間出発を遅らせても良いようだ。かほく市の大型ショッピングモールで安くガソリンを入れ、暇をつぶす。小松空港からレンタカーアクセスの川ヤンや成田のTさんなどニーマルメンバー12名と連絡をとりつつ、いつもの高松SAで合流した。来年8月は、この能登有料道はすでに無料化されているとのことだ。

あろうことかDAiさんが同日のアドベンチャーレースへと浮気してしまい、リーダー不在のせいもあって今ひとつチームの動きが鈍い。能登空港近くの定食屋でカレーうどんを食べ(押し寄せたトラ連中が食い尽くし、ご飯類は売り切れだった)珠洲入りは午後2時を回っていた。今から選手会場へ向かっても3時からの説明会には間に合わないので、先にスイム会場へと向かい試泳することにした。今までにないパターンだ。

ベタ凪でいつにも増して透明度の高い珠洲の海を堪能できた。水温が30℃と相当高く、スパ気分で浸かっていられる。この湯加減は本番では辛いかもしれない。
指輪をはめたまま初めて泳いでみた。絶対に抜け落ちることは無いだろうとは思うものの、一かき毎に気が気でない。万が一ということもあるし、明日は外してスタートすることに決めた。

午後6時からの説明会に合わせて登録会場へ向かう。人も少なく、すんなり終えられた。宿に戻るのが少々遅くなったけど、流れとして悪くない。

例によってT崎荘の一階はニーマルチームで埋め尽くされる。賑やかな夕食には、N井さんの知人が旅行中の沖縄から送ってくれたパイナップルとマンゴーが添えられた。完熟採れたてはこうも美味いものか。粋な計らいの知人に感謝。

午後9時半頃消灯。
悲劇はここから始まる。睡魔と戦いながらの長旅でたちまち深い眠りに落ちてもいいはずなのだが、どこからとも無くやって来た蚊に悩まされて全く寝つけない。虫除けスプレー、蚊取り線香、金チョール、ウナコーワ、せめてどれか一つでもあればよかったのに面倒臭がって全てを怠った。後悔先に立たず。刺されまいとタオルケットを全身に巻くも、クソ暑くて寝られない。観念して肌蹴て寝ていたら、ご丁寧に寝返りを打つ毎に全身くまなく、顔にも3ヶ所刺して行きやがった。食い逃げされたのが何より口惜しい。

8月26日(日) レース当日
ほとんど寝つけぬまま、無情にも起床時刻の3時半がやってくる。早速周りのみんなに蚊の件で同意を求めると、なんと誰も知らないという。マジかよー。ひとり誘蚊灯かよー。
昨晩三杯も食べた反動で食欲がないが、一杯で終えてもまるで気にとめない。もう何というか、投げやり気分なのである。
今年は参加者が激増しており、駐車場がパンクするかもしれない、という不安から皆の動きが早い。例によって慌てずに準備していたら取り残されたので、焦り顔のカントクに急き立てられつつ宿を出る。ヒミツのバイパス道をカッ飛ばし、駐車場はいい場所に停められた。というより心配せずともキャパは十分あるようだ。
当然、これまでのバイクラックスペースでは足りずにエリアが移動するだろうと読んでいたが、全く変化ナシだった。こちらも十分なキャパがあったようだ。1994年に参加した時もトライアスロンブーム全盛で実は今回並に参加者数は多く、主催者側としても決して経験のない人数ではないのだな。
5分毎に250名ずつ4組のウェーブスタート。以前は100名ずつを5組に分けてのスタートがあった事を思うと、もう少し再調整できんもんなのかなと思う。混雑を避けるためだろう、スイムコースが若干見直され、直角コーナーが鈍角に改められた。従来は沖に向かって垂直に300m泳いでいたのを斜めに500m泳ぐことになったのだ。これは合理的で良いと思う。

レースへの準備不足は僕と同様に否めないタイプBのカントクと、諦めないでゴールを目指そうと健闘を誓い合い、スタートまで10分を切ったころで少しだけ水に浸かって身体を慣らし、ほぼ最前列に並んでスタートを待つ。

7:00 a.m. スイム第1ウェーブスタート
記憶があいまいだが、たしか今回は申し込み時にどのウェーブでスタートしたいか希望を訊かれなかった。このことで、スイムの得手不得手に関わらず予想ゴールタイムの速い人は第1ウェーブに集められたのではないかと推測。順位が気になる者にとってはウェーブ差をさほど気にかけなくてよいという点で歓迎だ。また、後ろから追い上げるパターンはバイクでのドラフティングを誘発することになる気がするので、その解消にも一役買うのではと思う。追い越されると着いていきたくなるのが人の常だからだ。
そうは言っても今回自分はどこまで潰れずに抑えて走れるかが肝であり、順位などを気にしていては却ってまずい、というか気にするような胸中にないだろう。

まずはスイム。持ち駒のない中、新たに考えたことは「スイムで余力を残す」ことだった。腕以外ほとんど使わないスイムは以降の競技に影響を残さないから力を余らせても無意味、全力を尽くせ、というのが普段の心構えだが、最初からベストを尽くすと、その価値を失いたくないとする心理が働き、力を抜くことができない。あえて手加減してクリアすることで、以降の展開で本来必要なペースを維持しやすいのではと考えた。
浜からの500m、しばらくはバトルの洗礼を受ける。やはり例年より多いせいだろう、露骨に足首や肩を掴まれたりもしたが、挑発に乗らずキビキビと泳ぐことを心がける。入りは普段よりもむしろハイペース。そしてなるべく広範囲を覗って流れを読み、安定した泳ぎをするグループを探し出せれば御の字だ。
波も潮の流れもない、非常に澄んだ海で泳ぎやすい。これは全体的に記録が上がるだろう。体力面で勝負できない僕としては、スキル依存度が低いのは正直なところ期待と逆。ただ若干暑すぎるのがどう出るか。

コーナーを曲がった頃から、一人の選手にコバンザメする。足の裏が特徴的だったので目印にしやすかった。スタートダッシュで上がった心拍をまずは落ち着けよう。彼はやや蛇行する癖が見られたので、ほどほどで離脱し、しばらくすると女性選手を見つけた。ランでもそうだけどこのポジションの女性は実力的に安定していて信用できるという考えから、後ろに着くことに決めた。こうして、いつになく他人任せなスイムが続く。
かと思ったが、やはりこの女性、若干遅いのではという気がしてきた。後ろに着いていると楽なので、自分より遅いと見誤ることは大いにありうる。そこで、脇にずれて追い越しを図り、先方に見えるグループを目指す。

30℃という高い水温で火照ってきた。頑張らないスイム、というコンセプトはいずれにせよ重要だ。
しばらくして、例の女性がほとんど真横にいることに気付く。追い越せてない。やはり勘違いかと悟って再び後ろに着く。
それを懲りずに2,3度くり返しながら折り返しブイに来た。どうせならずっと着いていればよかった、と考えるのは結果論だ。
ここをターンすると間違いなくほぼ全ての選手が、離れた左側のコースロープへと斜めに泳ぐ。僕が期待しないコース取りなのだが、コバンザメコンセプトの今回は素直に着いていく。
僕がマークした女性もそのまた先の選手をマークしていた。その先はポッカリ空いている。

しばらくしてまた悪い癖が出る。先導する選手が遅れ始めてないか?という疑惑。
いままで楽をしてきたのでここらで先頭に立ってスピードを上げ、離れている前のグループまで追い着こうと考えた。まずは目の前の女性を左からパス。
だがその先頭の選手は左コースロープギリギリに泳いでおり、僕は左からパスする隙間が無い。そしてぴったりと女性が続いており、僕は袋小路状態になってしまった。
結果的には番手を二人がシェア(奪い合いとも言う)して泳いでいるような形。いつかは態勢が変化するだろうと期待しつつ、実際は全く崩れないままラスト500mのコーナーまで窮屈な隊列で泳ぎつづける。
あとで思い返せば、ほとんど無駄な足掻きをしていたのだがどうもその場では脳味噌がマトモに働いてない。それと、いつになく首の後ろがウェットで擦れて痛く、ヘッドアップの度に激痛が走るので攻める気持ちも半減してしまった。キネシオテープの貼り忘れを激しく後悔する。

浜へ向かう最後のコーナーを曲がったところで左側に余裕ができ、やっと前へ出ることができた。しかしいまさらスパートしてもすでにゴールは近く、今日のコンセプトに反する、と言い聞かせホドホドに飛ばす。浜へ上がって気付いた。前泳者も女性だったのだ。今回は女性に護られながらのスイムだったなあ(と勝手に感謝するウザイおっさん)。
チラッとタイムを見て予想以上に速かったことを知る。こんな楽してほぼ去年と変わらないとはどういうことか。コース変更やコンディションの良さで恐らく全体のタイムが良くなっているのだろう。


SWIM 2.5km 41:38 (28位 スイムトップ差 6:40)
HR125/149 422kcal


7:43 a.m.バイクスタート
カントクの声援を受けながら、バイクスタート。
バイクは思いっきりユルユルで走ると決めていた。スイムの興奮冷めやらぬ序盤は負荷が上がっていることに気付きにくいので特に気をつける。ほとんど脚の重みだけでこいでいるような、カントクのペーサーより楽してるんじゃないかと思えるくらいユールユルに。ほぼ無風の中、それでも平地を34km/h程度で巡航できているので遅すぎることはない。アドレナリンはそれなりに出ている。心拍は130、スイム後であることと、本番の興奮のため負荷より高めになっているはずだ。
そしてもう一点、エイドに必ず寄って水をかぶること。
数日前の予報では、この週末は暑さが一段落すると言われていたが、日が近づくにつれ徐々に予想気温が上がり、とうとう昨日はいつもの熱い夏に戻ってしまった。今日のレースも過酷な暑さとの戦いになることは必至と思われた。ボトルには何を入れ、エイドで何をすべきか、カントクにも念入りに伝えた。とにかく暑さ対策は万全に。飲まざるを得ない状況をなるべく作らないことだ。給水サイクルが追い着かなくなった時点で失敗、そうならないための対策が冷却であり、ともすれば給水よりも重要である。
早速立て続けに追い越される。ここで焦ってはいけない。どうそどうぞ、お先にどうぞ、ゆっくり走ってるんだからそりゃそうです、の精神だ。

そんな感じで、暑さへの身構えは十分すぎるほどあったのだが、いざバイクスタートしてみると、爽やかさで満ち溢れ、何とも気持ちがいい。暑い暑いと予防線を張りすぎたのが急に愚かしく思えてきた。こんなコンディションのいい中を走れるなんて、まるで観光気分だ!
そうは言っても、油断はしない。初心貫徹でエイドには必ず立ち寄り、水をかけた。

携帯したボトルは、前日宮塚さんの出店で買った新種の粉末スポドリを溶かし、もう片方にはエネルギージェル2個にMDを混ぜジュースで満たした。KUENSAN POWERという「乳酸」が売りのこのスポドリは、ほぼ完全に甘くないので驚いた。クエン酸の酸っぱさだけがある。んー、微妙だ。甘いものに飽きるロングなどには向いているのかもしれない。

そんなこんなで、狼煙まで来る。女性を一人パスした。ゼッケンから招待選手のカナさんと推測できたが、印象が異なって見えたので声をかけそびれた。のちに聞いたところではいまひとつ調子が良くなかったらしい。
二つ目の上りピーク付近に温度計が見えた。27℃。うむ、確かに涼しいようだ。下りのラケット道路は気持ちよく飛ばす。横風にあおられがちなここも安心して走れた。TTバイクにあっさり抜かされたが。
向かい風になることが多い北側の海岸沿いも風はなく、穏やかに走れた。

大谷峠への上りに入る。上り口は3年前のコースである、短くて急な坂の旧道に戻っていた。そのため、バイクコース距離は当時の100.2kmとなるはずだが、一部の公式資料ではそのまんまになっている。ここでは100.2kmとしている。来年はどうなるだろう。
しばらく続くきつい坂をダンシングで上る。急坂でがんばらないで上るためにはそれしかない。得意の「ゆるゆるダンシング」だ。先行者はまだ1周目だというのにジグザグに上っていた。彼なりのゆるゆるクリア法なのかもしれないが、ジグザグで上るのはトータルでの仕事量は多い気がするので、セーブして上る他の選択肢がない場合に限られる方法だと思う。
そびえたつ数本の風力発電は回転休業。珍しい光景だ。
大谷峠をダメージを抑えてクリアした。続く下りの一時停止でオーバーランしてこけそうになったものの、順調に麓まで下り、平地も33km/h前後で走る。若干向かい風であり、これは去年と同様で例年と異なる有利な風向き、という気がする。

序盤で追い越された人を抜き返す、というパターンがちらほら見られるようになった。
僕はペースアップしてないので、彼らのほうが垂れてきているのだ。
1周目を終えてラップを見ると、目標以上に速い。バイクは3時間20分、1周あたり1時間40分を目標に据えていたがまず無理だろうと見ていた。Polarでは39分前後で通過しているのが確認できた。
これだけ抑えて走っても、良い条件下ではほとんど速度低下にならずに走れたようだ。

2周目は1周目と同じではなかった。
明らかに風が出てきて、同じ場所で同じスピードが出せない。ついつい帳尻を合わせようとペダルを踏む力が強くなり、ゆるゆる加減が思い出せなくなった。もっと遅くすべきなのだ、と言い聞かせる。
だが、「脚の重みだけで踏むような感覚」を再現しても、やはり同じように楽な印象はなかった。こんな負荷でも、それなりに疲れてきたのだろう。体幹も弱ってきて、DHポジションをキープできる時間が短くなってきている。心拍は137前後を維持する。

1周目(左)と2周目(右)で全く同じ位置から撮影。差は見られない?

峠の温度計は30℃を示していた。風も強くなり、2周目の条件は相対的に厳しくなった。楽な1周目をエコモードで走り、きつい2周目を十分温存された状態で迎えられたのはとても合理的だったように思う。条件が良かった1周目を気持ちよく追い込んだ選手は多いはずだ。2周目に入りその落差は大きくなったに違いない。抑えるなどという発想からはますます遠ざかり、力尽きるまで追い込んでしまいがちだ。

2つの峠をクリアした後、最後尾車両に追いつく。1周目の選手をちらほら見かける。選手増加で裾野が広がったようだが、現時点でまだ1周目というのはきついだろうなあと思う。

2回目の大谷峠に突入。山の上の風車は回っている。とそこに、道端で自転車をばらしてホイールを手にする選手が目に入る。どうみてもそれはK坂さんだ。坂の入り口で何やってんだ? ノーコメントで通り過ぎるには事態が異様すぎる。「あれーK坂さんどしたのー?」 パンクかと思ったらそうではなかった。「タイヤが曲がっちゃったんだよ!」と憤慨した様子。タイヤはもともと曲がっている、と出かかった言葉を飲み込んで通り過ぎた。後で聞いたところではどうやらスポークが切れ、フレームに干渉するくらいホイールが振れて走れなくなったようだ。近頃の決パはスポーク数が少ないので1本でも切れたら致命的。だが超人ハルクK坂さんは大谷峠頂上にメカニックがあると聞いてバイクを担いで上ったというのだから驚きだ。K坂さんの伝説は、至って真顔でその行動に至る経緯を説明してくれて、一応筋が通っているのだがやっぱりクレイジー、ということが多い。
2回目の大谷峠でヘロったらペースを誤った証拠、パワー残量と相談しつつ慎重に上る。同じペースで走ってきた選手が見えているから、決して遅すぎない、という判断ができる。
さすがに最後の激坂では温存すべき力を使ってしまった。頂上付近のチェックポイントで「10位」との声が聞こえた。断然いいポジションに驚くも、どことなく他人事のよう。続く長い下りではペダルを止め、ひたすら回復を願う。

Polarを見ると、2周目の平均速度が芳しくない。平地の見通しのいい直線での進まなさ具合にめげそうになるが、ここで焦って無理に追い込まないよう気を付ける。一人パスし、これで9位に上がった。
残り10q付近でボトルが空になった。最後のエイドでも優先して取ったのはスポンジで、飲み水は二口分程度。喉も少し乾いてきた。ランに入るまでしばし我慢だ。
スイム会場へ戻ってきた。やはり2周目は遅くなり、目標の3時間20分切りは難しいことがわかった。イーブン負荷を目指したのだからもちろん計画通りだが、1周目であれほど大胆に抑えても今これだけ疲労の蓄積があるところを見ると、現状の脚力を鑑みた絶妙なペース配分だったなと思う。

BIKE 100.2km 前後のトランジット含む 3:21:16 (14位 バイクトップ差 17:45)
HR135/159 2332kcal
Swim+bike 4:02:54(9位通過 総合トップ差24:25)


11:03 a.m.ランスタート
走り出す前にまずは水をしこたま貰い身体にも浴びるつもりでいたが、なんとエイドがまだ設営されてない。なぬー! 次のエイドまでお預けとは。あとで知ったがそれって去年もそうだったんだって? ポジションで条件が変わるようなことはやめてくれよ。ややうなだれた面持ちでランスタート。この付近は沿道の応援が多いので、初っ端からのろのろと走り出すのが少し恥ずかしいけど、見栄を張ってる場合ではない。ランでもとにかく抑えて抑えて、何とか潰れずにゴールまで身体を運ばなければならない。

今回、あわよくばの目標として考えていたのがトータル6時間切り。その実現のための予想シナリオにほぼ沿った展開でこれまで来ている。残るランをキロ5分で走れば1時間56分、つまり6時間をギリギリ切れる。先月のスペインでのロング世界戦でJYUさんが30qをキロ5で走り通したことが頭にあった。それよりずっと短い23.3qだ、やってやれないことはないはずだ。
去年は前半をキロ4分20で飛ばし、後半タレまくったという失敗を犯している。今年は脚力がずっと落ちているので、尚のこと気を付けなければならない。6時間切りは必須条件ではないので、目標ラインギリギリの平均キロ5を最初から狙うことにする。
今回はとにかく暑さとの勝負。各エイドで完全停止し、十分水を浴びることになるだろう。バカにできないそのロス分を差し引いて、実際はキロ4分40付近で走る必要があると考えた。
そのペース配分はPolarのストライドセンサーを頼りにした。珠洲のランコースは十分な距離表示がない上に、場所がイイカゲンで正直あてにならない。Polarの誤差はこれまでの経験則からある程度は読める。

キロ4分40は正直きつく、これまでのような「抑えた」走りになってない。やっと最初のエイドへ。念願の水を得て、全身にも躊躇なく被ったらシューズがグッチョグチョになってしまった。あまり気にしないほうだけど、やはり走りづらくなってしまった。次から気を付けよう。
前後に選手はほぼ見えず、孤独なランが続く。と思ったらバイク終盤で追い越した選手にかなりの速度差で追い越された。うむ、やはりあのくらいのスピードが本来出せないとダメだな。

キロ4分40は限界ではないが、今のこのくらいのマージンでは最後までイーブンペースは保てないことを身体が知っている。維持できるのも5qくらい、そこからは徐々に下方修正しながら走ることになりそうだな、と憂いながら走ってきたが、幸い6q、7qと過ぎてもとりあえず調子に変化はない。

毎回、エイドでの作業はあまりかわらない。まずバケツの氷水を掴める限りのスポンジで十分浴び、2個は持参する。氷を2,3個持って背中のポケットかパンツの中に入れる。スポドリをコップ1杯飲んで、スイカかオレンジか梅干をとってGo。なかなか効率よくできず、手が2本しかないことを歯痒く思う瞬間だが、これらを怠るとそれなりにツケが回ってくるから侮れない。
距離表示とPolarの計測値がかなりずれてきた。普段の練習ではありえないほどの差が生じている。いくらなんでも距離表示がそこまでイイカゲンとも思えない。なぜ今日に限ってPolarの誤差が大きいのだろうか。それは、普段のランとトライアスロンとしてのランとは脚運びに明確な差があるということだろうか。

毎年いつも同じあたりでトップが対向からやってくる。今回のトップはランでずいぶんヘロっているように見えた。やはり暑いということだろうか。この分だといずれ順位は入れ替わるのではと他人事ながら案じてしまった。
見附島を拝むことができる、珠洲ランコース唯一のアップダウン区間。フォアフットで上り始めたが、脚には表面的にしか力が残っていないと感じた。だましだまし走ってきたが、長くは持ちそうにないことが読み取れた。

2位以下とすれ違う。トップは断トツで差をつけていることを知る。
毎年、ここで対向の選手を数えながら、自分のポジションを知って一喜一憂するのだが、今年はまったく気にかけなかった。そんなことはどうでもよくて、ランでいつ潰れるかだけが唯一の関心事であった。
T崎荘の前に座っている女将さんにオーバーアクションであいさつする。例年、無視されていますよ、と毎年言い続けてきたがさすがにやっと、それなりの反応をしてくれた。

スタートからもっとも遠いエイドではすこし長居してじっくりと体を冷やし、摂りたかった補給を取った。あと半分、果たして維持できるだろうか。続く折り返し地点を過ぎると、今度は一歩一歩ゴールが近づくことになる。折り返しとは言え12qは過ぎており、残りはすでに半分より少ないことに今更ながら気づき、少しやる気が出る(のちに地図で調べたところでは、折り返しポイントは12qに未たない。12qの距離表示位置の誤りか、自分の思い違いかは定かでない)。
走る方向ががらりと変わり、向かい風となった。実はこれには助けられた。空気抵抗よりも、冷却効果のほうがありがたかったのだ。同時に気持ちもポジティブな方向へ切り替わった気がする。

折り返して対向に見かけた最初のニーマル仲間は愛知のO部さん。満面の笑顔とハイタッチでパワーを貰った。あまり差がないので追いつかれる可能性もある。O部さんのその完璧なまでの肉体美は脅威だ。レスキュー関係に従事していると聞いていたので、毎日サスケみたいな訓練をやってるのかなと思っていた。後でその肉体のヒミツを伺ってみると、腕立て伏せすらやってないし業務でそういった訓練などは全くないという。もともと筋肉質になりやすい体質なんだとか。へぇー、信じないけど。
今回、知合いの中で最も上位に来ると思われたのはO杉さんだ。僕と比較するとスイムがやや遅いがバイクは本職並に得意、ランは互角。6月の宮島でかろうじて勝てたのは、トラ歴の浅い彼がトランジットをのんびりやっていたからで、若さと上げ調子であることを加味すると尚更勝ち目がない。
ところがそのO杉さんがやっと対面に現れた。完全な番狂わせだ。おそらく、攻めたくなるバイクコースが彼のペース観を狂わせたのだろう。珠洲は経験の有無が意外と大きなハンデとなるようだ。

珠洲の単調なランコースは参加6回目でも覚えられず、不均等なエイドの場所もほとんど記憶に入ってないので、常に出たとこ勝負な感じで走っている。
とある緩やかなカーブを曲がり、遠くまで続く長い直線路へと来たとき、僕はそこでホッとする自分に気づいた。普段なら、見渡すかぎり展開がないことを知って少なからずうんざりしそうな場面だ。
ところがその時の自分は、少なくともあの見えている場所までは今のこの調子で続けられる、などと思ったのだ。理屈が通ってないのはさておき、この発想は今までなかった。
つまり調子が良くなってきたってことだ。ホントか。スタート時からこのペースを維持できているだけでも驚きなのに、計画的なコツコツ走りがここにきて根付いてきたようなのだ。

次のエイドが見えてきた。砂漠を彷徨っていた旅人がオアシスを見つけた時のように、早くあの氷水を浴びたくてペースアップした。そして勢い余ってお目当てのバケツを通り過ぎるというコメディを地で行く。余裕があるのかないのか自分でもよくわからないこの感覚も妙に新鮮だ。
14〜16qあたりはいつも距離表示がなくて心理的につらいが、今回はPolarが教えてくれるという安堵感があり、結局はPolarを見ることもなかった。あと何キロ? という煩悩に苛まれることが少なく、ただひたすら淡々と走れたのだろう。
そのなかで、唯一重要なのは身体を冷やすことだった。
今回、走っている間に新たな冷却法を編み出した。暑いレースではエイド間でスポンジを持ち続けて走ることが多いが、お護り程度の役割しかないことも承知していた。実は氷のほうが実用性が高いことに今更ながら気付いたのだ。これまで氷と言えば、冷たすぎるのと、溶けるのと、滑って転がりやすいという特性から、扱いにくいものとして避けてきた。結局は利点を引き出せられないからもらっても弄ぶだけだと。帽子の間に入れるとか、たまにやるよね。頭の一部だけ不必要に冷たくなりすぎたり、ほどなくして転げ落ちる。集中力を欠くだけの意味のないものである。
ところが、空のコップを背中のポケットに入れておき、その中に氷をゾロゾロっと入れて運べば、滑って転げ落ちることもなく、すぐに溶けて消えてしまうこともなく、エイドから大分離れて本当に必要となった時に一つずつ落ち着いて取り出せるのである。実に、何てことないアイデアである。走りながらカランコロンと奏でるのもご愛嬌。まだ溶けずに使える氷が残っている証拠だ。

成田のTさんとすれちがった。勝手な印象だけど、一頃と比べると戦意を取り戻したみたいで嬉しくなった。
復路の後半あたりから、フルタイムフォアフット走へ切り替わった。単につま先を持ち上げる脛の筋肉がヘタってかかと着地ができなくなったというだけの、いつもの症状なのだが、それならばフォアフット走だね?とポジティブに捉えることができるようになったのは大きい。今までのパタパタ走りとも多少は違う気がする。フォームの変化に伴うペースダウンはだいぶ避けられるようになった。むしろゴールが近づくにつれてペースが若干上がってきた印象すらある。

ラスト5qを過ぎ、タイプBの中間どころの選手と混ざって走る。去年はこの場面でかなりタレており、タイプBより遅いペースだったが今回はおおむね追い越す展開。
とそこへ久々に背後からタイプAの選手がやってくる。トップ常連選手で、こんなところで追い越されることは過去になかった。だが潰れているわけでもないようで、すぐに姿は小さくなった。バイクでメカトラでもあったのだろう。あのくらいの速さで走れなければならないな。

しぶとく、スタート時と同じ速くも遅くもないペースを維持できているのだが、エイドでしっかり冷却しないと前へ進めないのも相変わらずであった。
見た限り、タイプBの選手はエイドであまりスポンジ冷却を求めていないようだった。もしかすると、暑がっているのは僕だけか? タイプAの選手の実態はほとんど見てないのだ。実は、一昨年ほどの暑さではないことは確かだ。

タイプBのカントクとすれ違った。満面の笑顔で調子よさそうに見える。僕も今回は笑顔で返せたと思う。が、後で訊いたらカントクはとてもしんどかったらしい。
ゴールまであとわずか。ペースアップは出来ないものの、ゴールまでこのまま行ける見込みはついた。まさかイーブンペースでランを走り通せると、スタート前に予想できただろうか。狙い通りのレース展開に満足し、何もゴールを急がなくてもいいか、などと思いもした。果たして6時間は切れるだろうか、そこだけが唯一気になるところだが、キロ5分ペースはほぼ守れている気がしていた。Polarを見れば分かることだけど、面倒臭くてスピード以外の情報を全く見ようとしなかった。

ゴール会場の野球場に入った。晴天と青い芝生の素晴らしいコンビネーションに今年も迎えられた幸せを噛みしめる。フィニッシュゲートに吊らされた計時板が反対側を向いていてタイムが判らないが、やるべきことはやったと自信を持ってゴールテープを切った。
タオルと完走メダルをかけてもらい、振り返ってタイムを見る。そこには6時間の文字が…。あれ? これ正確なタイム? ウェーブスタートとか別部門の表示か何か?
と、ほかの可能性をすべて考えるのに1秒とかからないほど、これは自分のタイムであることに疑いようがないのであった。

顔が歪んでる

RUN 23.3km 2:00:38(49位 ラントップ差 20:58) HR151/160 1702kcal
 
total 6:03:32(13位/861人) HR139/160 4456kcal  トレーニングロード985

3分以上も過ぎていたとは不覚だ。
どこで勘が狂っちまったんだろう。一つはキロ4分40で走っていたつもりでいたのが単なる妄想だったということだ。Polarが実際より速い値を示していたことはその時点でも読み取れていたのだが、無意識に都合よく修正していたところがある。また、途中エイドで立ち止まっていた時間は思ったより長かったようだ。ログを見ると13か所のエイドすべてで30-40秒停止しており、長いときは1分も止まっていた。そんなに長い間、何やってたんだろうと思う。その停止分を引くとキロペース平均4分50、やはりペースが遅いのが主原因であることは確かだ。
Polarの活用も怠った気がする。いくら距離表示があてにならないとは言え、12qあたりで一度ラップを取れば正しいペースを把握する手助けにはなったはずだ。
後に、終盤で追い越された選手がちょうど6時間でフィニッシュしていたことを知り、僕の目標がどのタイミングで立ち消えたかが分かった。

今回、順位に関してはほとんど気にしなかったのだが、13位という予想外にいい位置でゴールできた。今年よりずっと調子のよかった去年で19位で、しかも参加者も200人増加したのだから、過去2番目にいい順位となれたのはなぜなのか説明がつかない。暑さをうまく制することができたのだろうか。その影響が色濃く表れるランで49位と振るわなかったので一概にそうとも言えまい。反面、苦しみと全く無縁だったバイクで順位が良かったのは、やはりペース配分の妙と言うべきか。次もこの作戦で行こうと思う。

カントクが帰ってきた。ゼッケンを外すのを忘れて同伴ゴールしたため、判定係の人を惑わせてしまった。どうもすみません。
今年もやはり、限界を超えたカントクはその後気分が悪くなってテントの脇で死んでた。そこまで自分の殻を破れたことは僕にはないな。

やがてみんな帰ってきて、青い芝生の上でごろごろと過ごす極上の瞬間。バイクフィニッシュ時にタイムオーバーとなってしまったアンジェラつねぽんが密かに悔しさを滲ませているようだった。彼女にタイプAを勧めた人たちがもうちょっと責任を持ってゴールへの道筋を示すべきだったのではと思うけどね。

ニーマル軍団のほかにも、浦安のスポクラ会員だったころ僕のことを知ってたというKさんや、筑波山で合同練したことのあるあごひげさん、相変わらずビキニファッションの岩手のT師匠と、いろんな人と話は尽きない。今日一日で得た情報量は脳みそにとても収め切れない。

僕とカントク以外はみな今日中に珠洲を去るそうで、明朝から普通に仕事という超人も多く、慌ただしく帰っていく。ぽっかり暇になった今年はアワードパーティに最初から参加して、さざえも普通に食べられた。スポンサー様を意識しすぎた退屈な表彰式だけは何とかしてほしい。完走すれば貰えるカップル賞を受け取って帰る。半ば期待通り、珠洲焼のコップと焼酎だった。
夜、熱い戦いも終わり、穏やかになったT崎荘の食堂で、ご主人が注ぐ冷え冷えのジョッキと海の幸にしみじみと舌鼓を打つ夕食もこれまた格別なんだよな。

翌日、プライベートビーチさながらの見附の浜でひたひたと浸かり、お気に入りのパン屋へ寄っていく。7月の挙式でのプチ手土産に選んだクッキーを作っている古川商店だ。自然派でアクティブな若奥さんからは今後のビジョンなど突っ込んだ話も聞けて楽しかった。
残暑厳しい中、パンを頬張りながらのんびり帰路へとつく。
あー、今年の夏が終わったなあ。

RESULT
Total 6:03:32 (Place 13/861人 完走733人 年代別2位)
Swim 41:38 (28) Bike 3:21:16 (14) Run 2:00:38 (49)