第20回新島トライアスロン大会参戦日誌
2011/5/21
Short Distance

竹芝を20分遅れで出帆したかめりあ丸の2等イス席で寝苦しい一夜を過ごし、大島、利島を経由する度に目が覚め、定刻を大分過ぎて新島に辿り着いた。
ずっと最下層に篭り、確かに海を渡っている様を一度も見てないので、実はまだ竹芝に居て騙されてたりして、などとくだらんことを考えながらデッキに上がる。初めて降り立った新島は、おとぎの国のような式根島とは違い、大島ほどの賑やかさはなく適度に寂れて、鮮やかな色の海と南国風味な山々にかこまれた静かな集落が出迎えてくれた。
風が結構強い。今日のレースには大きく影響するだろう。海がわさわさと波立っており、スイム中止の文字が一瞬頭をよぎるが、ここのスタッフにゼロリスク症候群の人は居ないようだから、まず大丈夫だ。

民宿と運転手を兼業しているらしい爺さんのタクシーで宿へ入り、レースのエネルギー源となるであろう朝食を早速頂く。明日葉をふんだんに使ったメニューは、地味だがとても丁寧な味付けで、ここの宿の食事は美味いと直感した。アワードパーティに取って代わるため、宿の夕食を味わう機会は残念ながら巡ってこないのだが。
宿は合計14人のアスリートで埋まり、半分くらいは常連のようだが、初新島という人は同時に初トラってパターンも多いみたいで、特におまいら二人はホントに大丈夫なのか?と周囲を焦らせるワカモノもいた。「ゆとり世代」と揶揄される典型的な奴ってホントにいるんだなー。通された部屋は雰囲気がよく、島の民宿に来たなあ、って感じを味わえて良かった。

新島はコーガ石という珍しい種類の石が採れるそうだ。至るところその石垣があるからだろうか、ちょっと沖縄にも似た雰囲気を覚えた。その石を使った新島ガラスというのも特産の一つのようだ。と言っても、新島で作っているものは他にくさやと牛乳せんべいしかないようだ。くさやの元祖は新島で、特に臭いらしい。
それと、島のそこここにコーガ石で作ったモヤイ像と呼ばれるみょうちくりんな石像が点在している。
「で? モヤイとモアイの関係とは?」などというベタな愚問を発することは、結局できずじまい。

バイクを組み立て、すぐにカントクとバイクコースの試走に出た。島の居住エリアを概ね囲むような周回コース13.5kmを3周する。路面に大きく矢印が描かれているからマップが無くてもコースを辿れた。
スピードが低いので判断が難しいが、トリッキーなコーナーがないかを探す。コースアウトや転倒を防止する意味合いより、各所各所で必要以上に減速したくないためだ。それと坂のピークなどを覚えておく。まあでも肝となるようなアップダウンはなく、むしろ風との戦いになるだろう。やや舗装状態が悪いところがあるが、島の道路はこんなもん。カントクのタイヤが本番でパンクしないことを祈る。普段のクソ重い練習ホイールから、シマノカーボン+Schwalbeに変えた。ミラクルな走りになるといいね。
ランコースも少しだけバイクで下見した。スタート直後にいきなり急な上り、とは聞いていたが、うわさ以上の長い上りに面食らった。これほどとは。

時間もなくなってきて、宿へ引き返し慌てて用具をまとめスタート位置へ。カントクがバイクシューズを宿に忘れてくるというトラブルがあって緊張が走ったが、最終受付はスタート30分前迄という、僕でさえキワどいと感じる余裕ぶっこいた大会スケジュールのおかげで無事準備完了。
近年の新島連勝者である篠崎君をトランジットエリアで見つけ声をかける。ジェットフォイル便が遅れた上に、島の反対側に着港して大慌てで駆けつけたらしい。アップが出来てないことをしきりにぼやいていた。ライバル不在でそんな心配要らんだろと思う反面、同様にアップなしの自分が全く気にも留めてないのは問題なのかと思った。

スタート20分前には入水チェック。開会式で1分ほどの黙祷がある。カントクが軽く試泳して戻ってきた。かなり水が冷たいとの情報。
このレースは4分間隔のウェーブスタート方式で、第1ウェーブは男子39歳以下、第2ウェーブはそれ以上と女子、そして第3ウェーブがチーム組&リレー組となっている。チーム戦は個人戦を兼ねているため、3つのウェーブいずれもライバルの対象である。第3ウェーブの篠崎君にどのタイミングで追い越されるだろう。
午後1時、浜から第1ウェーブがスタートを切る。緊張で心拍は77まで上がってきた。


スタート30分前。遠くにぽつんと第2コーナーブイが見える

1:04 p.m. 第2ウェーブスタート
レディース&オヤジーズグループのスタート。100人ほどだからほとんど混乱はない。海はすぐ深くなり、ラッセルで息が上がる前に飛び込んだ。ウェットは腕出しのロングジョン。冷たい水が意外にも心地よく感じたのは、サイダーのように澄んでいたからだろうか。
港なのか海水浴場なのかよく判らない新島港海水浴場を、防波堤からややはみ出す形で3角形に泳ぐ。これを2周。マイナーな左回りだ。右ブレスなので不利かと思ったが、全く関係ないことを知る。コースロープや繋ぎのブイはなく、海に浮いているのは2個のコーナーブイのみ。つまりひたすら前方を確認するしかないのだ。初心者にとっては手厚くないと思われる。だが、ヘッドアップでブイを目視できる距離であれば、ブイの間に何もない方がむしろ泳ぎやすいのかもしれないと感じた。コースロープとは、理想とするライン上に存在しているから実は最も邪魔なものなのだ。

第1ブイを曲がって沖へと方向を変えると、徐々に波が高くなってきた。立体感のある周期の大きな波で、ヘッドアップのタイミングを考えないと目指すブイが見えない。海底まではすでに4、5mくらいはありそうで、本格的な雰囲気になってきた。なかなか進まないで苦労するかと思えば案外そうでもなく、根拠はないがいいポジションをキープして泳げている感じがする。ちょうど女性選手と隣同士になり競っていた。直前駆け込みスイム練はかなり効いているとみえ、腕が早々に干上がる気配は無い。
第2ブイを回り、浜のSTARTゲートを目指して泳ぐ。泳ぎやすい波へと変わる。4分差の第1ウェーブの選手が徐々に増えてきた。間違えて後ろに並ばないようにしないと。

一旦浜に上がり、ゼッケンを告げて再び海へ。ここで、少し先行する選手を目標物に据えて泳ぎ始めた。程なくして間近に迫り、彼にベタ着きすべきかどうかしばし考える。中盤以降で追いついた選手のスリップストリームが自分のタイム向上に繋がる可能性は、理屈から言って低い。スイムで温存するメリットは無いため、後ろに着かず独自ルートで積極的に追い越すことにしているのだ。
ところが、ふと見るとその彼を全然追い越せてないどころか、少し先行されていることに気付く。自分のコース取りをしくっているか、珍しく彼が後半追い上げるタイプだったか。いずれにせよ真剣に追いかける価値がありそうだ。
だが、それでも見る見る離される。おかしい。スパートをかけたようだ。それに対し、日頃の練習ほどは全力を出し切ってない自分。腕が折れるかと思うくらい歯を食いしばって泳いでみろ。
結局彼に追いつくことはできずにスイムアップ。まあそれでもなかなかの感触を得てフィニッシュできた。

SWIM 1.5km 22:50 (25位/235人 トップ差 4:03)
1周目は11:18だったのでイーブンに近い。1.5kmより微妙に短いかな。

1:28 p.m. バイクスタート
スイム上陸地点からバイクラックまでが極めて近いため、トランジットタイム僅か1分でバイクスタートできた。
まずは追い風で海沿いを走る。45〜6km/hは出る。なかなか快調だ。
程なくして、ネーム入りトライスーツを着たW田の女子選手に追いつく。他の男子選手に乗っかり、僕とあまりスピードの差が無いので追い越しに時間がかかる。乗り移られるか気になったほどだ。若手で英才的なこの手の女子選手は、ドラフティングも戦略の一つと割り切っているように窺える走りをする。指導者の影響なのか、普段男子との合同練がメインで習慣化してしまうのか。

コーンを折り返すと強い向かい風。重いままのギアでもったり加速していると、クルクル回して走る選手が横を過ぎていき、ものぐさな自分を反省する。体型から篠崎君と判った。毎回彼はバイクラップ1位だが、無理すればついていけそうな速度差に思える。太く逞しい筋肉を全身に纏いながらも、高回転型で見た目は派手さのないペダリングがそう思わせるのかもしれない。だが実際は確実に速いのだ。
意外にも彼のバイクはドロップ+アタッチメントのロードで、エアロヘルメットでもない。まあそれでも十分だけどな〜。
島を横断し、東側の海岸沿いに出た頃にはすでに視界から消えていた。
ここは向かい風と若干の上りでスピードががっくり落ちるところ。今回僕にとっては攻め所として比較的アクティブに走れた区間だ。君津練が効いていたかなと思う。スピードが落ちてみじめに感じても、落ち着いて効率よくペダリングすることに専念し、焦って無駄に気張らないことを特に意識した。
自然に包まれ、景色のいいところでもある。森のトンネルは特に気持ちがいい。坂がきつくなる所でもあるがさほど苦もなくやり過ごせる。それを超えればあとはスタート地点付近まで下り基調の快走ペース。

2周目に入り、ガタイのいい外人選手に追い越されたが、向かい風や上りで遅くなるので抜き返すか迷いつつ、全体的には彼が速いはずなので様子を見る。そのうち、ペースメーカーと考えることにした。2周目は彼を視野内において走ることにする。
だが、スイムのときと同様、徐々に一定間隔を保てなくなる。100m以上離されたころ、さらにもう一人に抜かされた。むむー、バイクがタレてきている現れか。TTバイクにエアロヘルメットの完全装備型の彼は、体型的には僕とやや似てパワー系ではない。彼のペースは僕と合うだろうと思い、やはりマークすることにした。
向かい風区間であっけなく抜き返し、一時は後方確認しても全く見えなくなる。気にかける相手ではなかったか、と思っていると、いつの間にか迫られ再び抜き返された。そんなことを2回ほど繰り返し、彼が10秒程度先行した時点でバイクは終了。ランで引き続きついていこう。

BIKE 40km 前後のトランジット含む 1:10:54(9位/235人 バイクトップ差 6:27)
実質タイム(Fホイールが動き続けた時間)1:09:00 34.78km/h
TE=4.5 HRave/max=143/153 872kcal 獲得標高320m
通過タイム 1:33:44(8位通過 総合トップ差9:32)

バイクラックエリアからランスタートへの出口が判らずうろついてしまったが、正解は最短で走ればよく、つまりラック位置によって不公平が生じる設計になっている。数少ない不満点の一つだ。
ターゲット対象を目で追うが、すでに見当たらない。あれえ?どこでしくじったかな。

Suuntoによるバイクとランそれぞれ1周の高低グラフ。縦軸一目盛は10m


2:38 p.m. ランスタート
スタートゲートからいきなり始まる上り→は、ログによれば700m続き、50m以上を上る。平均斜度7〜8%は激坂ではないので、歩くようなスピードまで落ちることはないだろうとは予想していた。心肺が十分対応できており、息苦しくなることなく、体感的には結構いい感じで走れている。FootPodによればキロ4分50程度だったのだが。

バイクで離された重量級の外人を頂上手前で早くもパスした。第1ウェーブの選手なのですでに4分差がついているが。しかし、もう一人のほうは全然見えてこない。頂上を超えたところからは未知のコース。なんだよ折角上ったのにまた粗方下ってしまうのか、と少々ガッカリする。そのあともアップダウンが続くと聞いているし。
広い道に出て、ゆるやかな上りへと変わる。幸い追い風が背中を押してくれるが、キロ4分15程度だ。対向車線にはトップ選手が先導バイクに守られながら下りてきた。トップ選手らしいオーラを放っているが篠崎君じゃない。思わぬ伏兵がいたとは、と思ったらその数分後に彼がやってきた。ああそうだった、第3ウェーブの篠崎君が断トツトップなのだった。声をかけると、「ナイスラン!」と返ってきた。

途中に軽い下りもまじえつつじわじわ上り続け、折り返し地点へと来る。陸上トラックと呼ぶよりは野原を開拓しただけの広場をぐるっと回る。その入り口でターゲットとしていた選手とすれ違った。とんでもなく離されており、ランで敵わない相手であることをようやく確認した。実はランラップ2位の実力者だったのだ。相手が悪いや。
広場の真ん中にぽつねんと佇むエイドでわずかばかりの水を貰い、身体にかける。スタート時から片手にはアミノバイタルスーパーを握り締めていたが、横っ腹が微妙に痛くなりそうだったので半分くらい飲みかけ状態のまま、お守りのように持ち運んでいる。

復路は下り基調となる。前後に選手は見えない。だがウェーブスタートで見えないライバルと競っている可能性があるので集中して走るよう心がける。
後続の選手とすれ違いながら進み、やがて往路から分かれて海岸沿いの道を下って行く。1周目の終わりまで上りはもう現れないことをその時点では知らない。ゴール近くの海岸線まで下りてきてようやくコースを理解したとき、そのことを事前に知っていればと少し悔やんだので、カントクとすれ違ったときは有用な情報としてぜひ伝えてあげようと考えた。

2周目の上りがガツンと始まる。こんどは様子見ではなく全力で行こう、下りで一休みすればいいから。さすがに途中から苦しさMax。だが本門寺TTよりはマシ。つまりは追い込みが足りないか。162bpmまで上がるが、珍しい値ではない。あとでログを見ると、1周目と同タイムで上り区間をクリア(約3分20秒)。進歩無いなあ。
下りで一息ついて、再び上りへ転じる。これが今日のレース最後の上りだから悔いの残らぬ走りをしようと心がける。もう篠崎君とはすれ違わなかった。かなりの差をつけられたなと思う。

広場を折り返した後、見るからに強そうなSunny Fishの第3ウェーブ選手とすれ違う。1周目でも見かけ、当然詰められることを予想していたので、逆に引き離していると知って嬉しくなり、もしかするとこの後4分以上の差をつけられるかもしれない、と思ったら俄然やる気が出てきた(実は敵わなかったが)。
その後、ようやくカントクの水色ウェアが見えてきて、さっき考えた特ダネを伝える間があろうはずもなくファイトとだけ言ってすれ違う。ハードコースにもかかわらずかなり快調そうに見え、期待以上にガシガシ行けているようだ。

残るは下りのみ。スピードを殺さずに下る走りは苦手だが、本門寺ランで大分身についたはず、という自負も多少はある。FootPodはキロ3分45くらいを示しているが今更何の足しにもならないだろうなあと思いつつ、前方の周回遅れの選手に追いつくつもりで飛ばした。最後は気持ちよくゴール。

RUN 10km 0:41:40(9位/235 ラントップ差 3:25) キロペース4:10 
TE5.0 HRave/max=154/162 570kcal ラン獲得標高230m
1周目 20:55 HR=151/158
2周目 20:47 HR=156/162

TOTAL 2:15:24 (5位/235人 トップ差 11:17)

ウェーブスタートなのでゴール後も5位という順位は判らないままだ。翌日に記録表が配られることになっている。
三種目ともバランスよくキッチリ追い込めた印象があり、タラレバは見当たらないなと感じたので、レース後落ち着いてタイムを確認し2時間15分台と知って正直少々ガッカリした。やっぱそんなもんかあ。過去のリザルトをざっくり見て、入賞圏内の12分台くらいをあわよくば狙いたいなと思っていたのだ。ランは39分で走る目論見になっていたが。
ハンデキャップ順位([年齢-35]分を持ちタイムから減算、僕の場合マイナス8分)に期待できるかなあ。でも後続の60前後の爺さんとか、やたら速かったし、などと考えているうちにカントクが1周目を終えてやってきた。しばし並走すると、相当速い。まだどこも疲れてないように見えるし、3時間以内の目標は軽く突破できそうだ。やるなカントク。
そして読み通りのタイムで2周目をこなし、3時間まで8分近くを残してフィニッシュ。
ゴールテープを切った途端に感極まって泣き出し、思わず飛び出した言葉が「練習が辛かったあ〜」だった。周囲からは「このスパルタおやじがぁ!」と冷ややかに見られたに違いない。

いつしか夕方である。大島にもあったような、水着で入れる無料の露天風呂があるとのことで、宿仲間のS夫妻と早速行ってみる。ゴール地点からわずか500m程度の場所で、見晴らしがよく、大島よりもさらに雰囲気が良かった。長々と浸かるに適したぬるめの設定で、最後は寒くなってしまったが、気持ちよく汗と潮を流した(よかったのか?)

そして夜はアワードパーティ。新島唯一の小学校の体育館で、刺身舟盛りをはじめなかなか豪勢な料理が振舞われた。くさやだけはどうにも苦手だったが。
自分の順位は表彰式で告げられて初めて知ったので、これは嬉しかった。入賞は全く期待してなかったのだ。久しぶりに壇上に上がったなあ。逆に、狙えると思っていたハンデキャップ順位は7位。
宿に戻っても当然みんなで盛り上がる。ショートの大会では見られないパターンだ。

あーそうか、土曜午後のレースの良さがだんだんわかってきたぞ。
RESULT
Total 2:15:24 (Place 5/235)
Swim 22:50 (25) Bike 1:10:54 (9) Run 41:40 (9)