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第17回佐渡国際トライアスロン大会Bタイプ参戦日誌
今度の佐渡では、明らかなライバルが、二人いた。2005/9/4 TypeB=SWIM2km BIKE105km RUN20km (TypeA=SWIM3.8km BIKE190km RUN42.195km) ひとかたは、オーベストのMさんを通して2ヶ月前から挑戦状を受けていたTさん。JCRCで見せたその野性的で爆発的な戦闘力はターザンの末裔に相違ない人物で、過去の戦績を調べさせてもらったところ、全てで上位に食い込んでいる。三種目ともバランスよく強く、付け入る隙がない。もし勝ち目があるとすれば、佐渡6回目のベテランとしての経験と勘か、この短期間に自分が強くなるしか方法はあるまい。 そんなわけで宣戦布告後の7、8月のトレーニングは、背後からヒタヒタと迫り来るターザン氏の幻影におびえつつ追い込むことになったのだ。 もうひとかたは、僕が勝手にライバル視した人物(意味はないが仮にマサト氏と呼ぶ)である。去年の五島アイアンマンから何とは無しに見かけていて、今年の五島では20分以上の差をつけられていた。マサト氏の三種目の実力バランスは僕と似ていたので、ベンチマークとしてもちょうど良いと考えたのである。 質・量ともに凡庸な筋肉を持つ僕は、心肺機能を最大活用して筋力のパフォーマンスを限界まで高められるミドルタイプが最も得意であると思っている。ロングになるとスタミナ不足で、ショートではパワー不足で頭打ちとなってしまうのだ。 そうして、ミドルが得意などと豪語する以上、ロングで敵わないマサト氏にミドルで勝って証明しなければならないだろう、と考えた。彼の名を参加名簿の中で発見して以来、二人目のライバルとさせてもらったのである。 9/4(レース当日) 夜半からいきなり雨模様で、気温も低く、2日前のうだるような暑さはウソのようだ。予報では大雨・雷・洪水注意報と出ている。そんななか、予定通り開催する旨の場内放送が流れた。そうこなくっちゃ。 スタート10分前。6時にスタートしたAタイプの先頭が早くもスイム終了で声援を受けている。スタート位置を吟味してうろうろしていたら、マサト氏を発見した。僕のことは知る由もない彼の背後にこっそり並ぶことにする。 7:00 a.m. スタート プゥー、の音とともに、Bタイプとリレーあわせて630人が浜から一斉スタートした。100mほどは浅瀬のため駆け足で進む。マサト氏はどっかに消えていた。心拍は140bpmまで一気に上昇。こんなところで脚を使いたくはないが、先頭はどんどん先へ進んでいく。先頭争いに加われずにゴチャゴチャのなかをスイム開始。 左側のコースロープに沿って泳ぐ。スタート位置から見て、第1コーナーブイを目指すにはそれが最短コースと判ったからだ。3角形を右回りに1周する2kmコース、通常は当然右端を泳ぎたくなるものだが、スタートの一極集中を防ぐためにあえてそのようなコース設定にしたものと思われる。 水は適温で波は全くない。船舶の排気ガスもなく、至って泳ぎやすい環境だ。程なくして水深は4,5mになり、海底もちゃんと見えるほどの透明度である。これで晴れの日であればさぞかし綺麗に見えたことだろう。前日出店で買ったクラゲ予防クリームを厚塗りしていたが、それらしいぴりぴりした痛みは全くなく、クリーム効果というより元から居ないようである。もしかすると先頭泳者に驚いてクラゲが退散しているのかもしれないが。 第1コーナーブイを曲がり、辛くないスイムは続く。だが、かなり調子いい泳ぎと自負している割には、周囲には選手が多く、上位に位置しているとはとても言えない状況だ。この調子で進んで、本当に去年のように10位以内で上がれるものだろうか? これ以上のペースアップも意味がないと思ったので、信じて泳ぐ。 今日はいつになくコース取りが上手く行っている。右手に見えるロープは常に3-4mの間隔をキープできている。いつもならどんどん左にそれて遠くなってしまうのだが。ヘッドアップもほとんど不要だ。これでいいタイムが出なければオカシイ。 第2コーナーブイも曲がり、ゴールまで一直線。ようやくリストラが進み周囲は少なくなってきた。コースロープギリギリを泳ぎつづける。150と書かれたブイを通過した。つまり1500mってことか。時計を見ると25分。あれ? 期待していたよりも速くないね! そこからは時計との睨めっこになった。なかなかゴールが近づかない。そのうちに、去年のタイムも過ぎてしまった。1500m25分のペースよりかなり遅れており、残り500mが異常に長い。今日は完璧な泳ぎだと思っていたのに、何たるタイム! 35分という3年前のレベルでスイム終了した。まずは貯金どころか借金からのスタートとなってしまった! 周囲はゴチャゴチャいてどの程度のポジションなのかまるで判らない。実際はここで13位についており、ガッカリするほど悪くはないのだが、今から思えばリレーの部の選手が多く含まれていたのだろう、ややトーンダウンしてバイクトランジットを駆け抜ける。 7:37 a.m. バイクスタート 曇天の中、105kmのバイクパートが始まった。2、3kmはバイクシューズを履くために格闘した後、本格始動で前を追い越しにかかる。 去年と違い、見かけるパックはすでにドラフティング。とくにリレーの選手に多いのはなぜか。バイクを得意とする人たちではないのか? カテゴリーが別だからどうでもいいが、彼らがBタイプとタッグを組んで集団を大きくするのは困りものだ。ルールもヘチマもあったもんじゃない。 15km付近、5人ほどのドラフターズを抜いて暫らくした後、先頭が一人また抜き返してきた。 その直後、驚いたことに彼は自分のケツをしきりに指さしている。 後ろに着けってか? 彼のジェスチャーを無視したことで僕の意志を悟ったのか、ややバツ悪そうにしているところを突っ込む。「抜かしたんなら、さっさと行けよ!」 するとさらに驚いたのは「すみません、ヨワヨワなんですよ」 なんじゃコイツ! ヘタレもいい加減にして欲しい。 彼を再び抜かしていく時に、彼は叫んだ。 「ファイトですぅ!」 なんかこう、「人がいい」ってのを履き違えた奴である。だが、意外とドラフターズにはこういう輩が多い気がする。以前巻町のレースで、僕が初めてドラフティングを注意したことがあったが、言われた彼はその後「どちらからですかぁ?」と親睦を深めてきた。オマエみたいな腐った奴と口なんか利かねえよ、と言いたいところだが「千葉からです」とマジメに答えてしまった。まだ若かった。 両津側の海岸道へと入る。30km付近。 「先頭から2分!」と沿道から言われたのは確かこの頃だったか。2分という割には選手が多すぎるように思える。 ぽつ、ぽつとソロ走者を追い越していく。まだたったの30km? と思う。ドラフターズから逃れるために必要以上に飛ばしていたようだ。やや疲れてきて、ちょっと気が緩んだ頃に、4,5人のドラフターズに追い越される。さっき追い越した集団とは別か? 去年は小木の上りまでは逃げ切ったのに、何たることかこんな位置で抜き去られるとは。 前回の9位からステップアップして6位以内入賞を目指すぞとの意気込みも、この体たらくではチャンチャラおかしすぎて30位もままならないといった雰囲気だ。早くももうダメダメムード漂う。 また一人で走っていると、後ろからゴリゴリゴリとディスクホイールを履いた腕っ節も脚っ節も強そうな選手があっという間に追い越していった。かなりトルク型な走りで、後半持つのだろうか、とこっちが心配するくらいの低回転だ。一気に30mは差が開いたにも関わらず、彼はちょくちょく後ろの僕を振り返りポジションを確認している。ケツに着かれるのを気にしているということは、このスピード差は一瞬だったのか。 だが、期待に反して彼はすぐ見えなくなってしまった。 ![]() エイドで初めてバナナを貰い、ムチャムチャ食っていたら背後からまた迫ってきた。今日は何人抜かれるんだろう、と思っていたら、ゼッケンを見て驚く。マサト氏だったのだ! そうだった、マサト氏に勝つ、これが今日の大事な目標の一つだったではないか。ロングで強い彼はランで粘りがあるはずだから、このバイクで抜かれたら勝ち目は無い。着いていかねば! 彼が50m程過ぎたところで、追走開始。マークしている事を悟られないようにとの意図はないが、やはり気づいてないというか、気にしてない雰囲気。 当然の理論として、追走はきつかった。とりわけ平地が速く、向かい風のなかをぐいぐい行ってしまう。僕の方が明らかに高回転型だった。 のぼりに差し掛かると、彼はあまりギアを変えないでそのまま上ってしまう。その分、ややスピードがにぶる。また、下りもそんなに攻めていなかった。アップダウン区間にくると一定差をキープできた。 それでも、追走できたのは5km程度。徐々に差は開き、あるところで一気に見えなくなってしまった。同時に、ここまでのオーバーペースがたたってスピードがガックリ落ちる。 マサト氏をライバル視したのはあまりに思い上がりだったか。まあ、彼は僕の腹の中で決めたライバルだから、「ダメでした、チャンチャン」で済むけれど、そういえばターザン氏はどこにいるんだろう? 間違ってもスイムが僕より3分も遅いなんてことはありえないから、この時点で追いつかないってことは、ターザン氏はスイムからずっと先行しているとみるべきだろう。結局、ゴールまで見ることは無いのだろうか。 小木港にくると突如、痛いほどの雨がボツボツ降ってくる。 ボツボツの雨は、やがてドシャーへと変わり、とんでもないスコールがやってきた。ボトルを放棄して小木ののぼりへ入る。いつもは大勢いる応援団もさすがにこの雨でほとんど退散したようだ。 惚れ惚れするほどの大雨で、ヘルメットから流れてくるしずくが目の中に直接侵入してきて辛い。まつげは機能を完全に失っている! この豪雨ではスピードもなかなか出せないだろうから、大雨が小木の上りと重なったことは僕にとってラッキーだった。冷却効果もある。 11分前にスタートしている選手権女子を上り途中でパスした。彼女らに最初に追いつくのはいつももっと手前だったが、今日はやはりバイクが遅いということか。 坂を上りきると、道の一部が冠水している。水位が判らないので怖くてDHポジションで走れない。この調子ですすめば、Aタイプが通過する頃は池になってないだろうか? 陥没やがけ崩れが起きないだろうかなどと考える。そのくらいの土砂降りだ。 4人ほどのパックにまた追い越され、さっさと消えていった。そうとうヘタっている。もう順位はサッパリ見当がつかない。残りの距離から換算したバイクフィニッシュの予想タイムは目標から大きく遅れている。実は去年のタイムも下回るペースだったのだが、それを知っていたら絶望の底に突き落とされていただろう。 終盤にハイスピードな長い下り区間がある。雨に打たれながらペダルを止めてボーっと下っていると、突然あることを思いついた。大きな声ではいえないが、走りながらアレを致す、という荒業である。雨脚は依然衰えてないので、ここでナニをしてもバレンメー、と思ったのである。スタンディング状態で精神統一。60km/hでのタチション。VXRSと一心同体となった記念すべき瞬間であった。キタナイデスカ? スッキリサッパリしたおかげで、向かい風の残り10kmを頑張れた。雨は止み、最後の3kmでまた一人女子を追い越して、商店街まで引いてきた。やけに女性から派手な応援を受けるなあ、と思っていたら、僕ではなく後ろの宮崎選手へのエールだった。うっかり手を振って返さなくて良かった。 ようやくバイク終了。トランジットエリアがぬかるんだ土のグランドなので、裸足はマズイと思い靴を脱がずにバイク降車。とっさの思いつきだったが良かったかもしれない。 雨避けのキャップを被り、パワージェルをパンツの腰にねじ込んで、メダリスト入りエビアンを持って出る。 道中摂取物(摂取順) メダリスト 500ml アクエリアス 300ml 水 300ml バナナ1本 パワージェル 水 300ml アミノバイタルジェル HRave/max 138/156bpm AveSpeed 33.2lm/h 10:48 a.m. ランスタート さすがに宮崎選手はトランジットが速かったようで、100m先を走っていた。ターゲットにして走る。あれほど脚にきたバイクだが、ランに移るといい感じで走れるのは助かった。 ![]() 過去にも何度かボトルを持って走ることがあった。佐渡は特にエイド間が長いので、水分を持って走ることのメリットは大きい。だが、バイク用ボトルは大きすぎて持ちにくいし、今回スピード重視なのでウェストポーチ類はつけたくなかった。 そこで登場なのが、300mlのぺこぺこのエビアンボトル。まず極限まで容器が軽いのがいい。そして、そこそこの容量と胴回りの太さ。飲んで中身が減れば、ボトルを潰して中の空気を抜くと、ポチャポチャ揺れるのも気にならない。さらに、必要ないと思えば心置きなく捨てられる! というわけで、あらかた飲み干したら、最後のメリットを利用してすぐゴミ箱に捨ててしまった。保険のために空容器を携行しても良かったのだが、ほとんど暑くないので必要なしと判断した。でも別のレースでこの方法は応用できるだろうということも判った。 手が軽くなると気分も軽くなり、前を行く宮崎選手と杉本選手をパスした。 プロカテゴリーの女子選手をランで抜いたことは過去にない。女性は総じてバイクが弱いがランは強い。僕みたいに、ランで潰れました、などという無鉄砲なレース展開は滅多に無いので安定してランを走りきるのである。史上初の快挙に少々途惑いつつ、調子ぶっこいて途中で潰れ、抜き返される危険も感じた。結構辛く、このあと17kmも持続できるのか? 長いなあ。ペース落とそうかなー。という気分が暫らく続く。 5km地点で21分5秒、まずまず狙い通りだ。今回のランでは14km/h以上(5kmあたり21分25秒)で走り通すことを目標としていた。トレッドミルでは比較的容易に出るこのスピードも、当然今は辛い。 田園地帯に入ってしばらくすると、かなりの勢いで一人抜いていった。あのスピードはマラソンレースでも出ないな、と思えるほどだった(それは当たっていた)。 15分前にスタートした選手権の部の河原選手がトップで折り返してきた。プロアスリートの走りをみてイメージトレーニング。力強さがまるで違う。 約7km地点、3km前からずっと前方に見据えていたBタイプの二人に追いついた。そして追い越し際に腕のゼッケンをみて「ややっ、この番号は!」と思い顔を上げると、ちょうど相手と目があった。 ターザン氏ではないか! かなりギョッとしていた。 「いやー追いつきました〜」 あれほどバイクで苦労して追いつけなかったのに、ランであっさりパスしてしまった、という感覚なので、自分でも驚いた。 お互いは微妙な速度差だったので、ここからパックになってデッドヒートになるかと思われたが、あっさり後退してしまった。それでもじっくりターゲットにされているかもしれないという意識で、集中して走る。 アップダウンのある道へ入り、上りでダレないように走る。ターザン氏に限界を悟られてはまずい、と思った。下りでは出来るだけ重力を利用してスピードアップ。ヒザに来るかもしれないが構っていられない。バイクで早々に追い越された金髪のトルク型パワーマンとすれ違う。期待に反して?全くタレてなかった。 10kmの折り返し地点は意外に早く現れた。そのとき、一人の折り返してくる選手が目に入る。 まさか、マサト氏か? じろじろ見ていたら彼と目が合った。マサト氏に違いない。 バイクでは絶望的に離された彼にいつの間にか迫っていた。何たることだ! 折り返しポイントでまた一人、スピードランナーに追い越される。せっかく追い越しても、誰かに追い越されて差し引きゼロって感じだ。だが、今の僕には順位よりも、マサト氏を追うことが何より重要だった。 やがてターザン氏とすれ違う。手を上げて合図を送ると、力強く「がんばれ!」と激をもらった。共に戦う者からの一言は重みがある。おうよ! がんばるぞ。前方に見えるマサト氏に克て! ということだな。 200mほどの距離があるマサト氏はなかなか近づいてこなかった。呼吸の度に思わず声が出る。だが調子は悪くない。 そして4kmほどの追走の末、やっと横に並んだ。一気に抜くような心理作戦の余裕はない。彼はすぐにぴたりと真後ろにつけてきた。彼の激しい息遣いが、絶対に逃さないとの執念深さを表すようで恐ろしかった。このままゴールまでデッドヒートなのか。ラストのスプリント勝負では間違いなく敵いそうにない。ここで決めなければ。 300mほど過ぎた頃から、息遣いの声が徐々に遠のいてきた。追走を諦めたのだった。やったぞ! このまま行けば目標達成だ! 15kmポイントを通過、19分33秒で見事にキロ4分を切っている。追走効果か。 残り3.5kmのラストエイドも通過し、残るは記録への挑戦のみだ。前方には選手権女子トップが見えた。彼女をランで抜くシナリオは、昨日までは全く予想もできなかったことだろう。 商店街の花道を最高の気分で駆け抜け、ゴールのグラウンドへと入った。そこでアナウンスが入り、初めて自分のポジションを知る。「4位の選手が入ってきました!」 ![]() 5時間9分19秒でフィニッシュ。 やがてゴールしたターザン氏と健闘をたたえあう。 彼曰く、バイク序盤で1位に上がり、しばらくはパトカー先導で気分よく飛ばしたそうだ。それがたたったのか、後半ばてたらしい。しかし、なんて彼らしいエピソードだろう。これから益々強くなっていくに違いない。彼に勝てた唯一のレースになったかもしれない。 思い切って、マサト氏にも声をかけてみた。ライバルとしてマークし、バイクでしばらく追走したこと、ランで追いついたときの驚きなどを話した。彼にとっては、全く気分の良くないものだったかもしれないが、気持ちよく応対してくれた。お世辞が多分に入っていると思うが、「ランはどんな練習をしているんですか」と問われたのは意外だった。僕のランを見て、軽やかな感じがしたというのだ。その質問はある意味、僕のランの実力をよく知っている人から発せられそうな内容なので可笑しかった。 ![]() ![]() * * * * * 今回泊まった宿はとても食べきれない量の食事を出してくれるところで、腹が悲鳴を上げていた。レース翌日の夜に家にたどり着いて体重を量ったら、案の定増えていた。以前、新潟の味は自分には合わないと書いたが、ここの宿の味は極めてスタンダードだった。たまたま今まで当たった味に偏りがあったのか、佐渡も都会化が進み日本の平均的な味にシフトしてきたのか、そのあたりはよく分からないが。 ![]() 初のステージ表彰 RESULT
Total 5:09:19 (Place 4/565) Swim 35:01 (13) Bike 3:13:42 (10) Run 1:20:36 (10) |
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