第67回富士登山競争参戦日誌
2014/7/25
五合目の部 15km

7月24日(木)レース前日
職場から急いで帰り、キリオ君とひゅ〜さんをピックアップして首都高に乗る。雷が鳴り始めたと思ったら、物凄い土砂降りになった。ワイパー全開にしても前が見えないほどで、道路は川と化し恐ろしくて60km/hも出せない。あまりに急のことで通行止めにする暇もなかったようだ。明日のレースに支障が出なければよいがと思ったが、降ってるのはこのあたりだけだろう。
そのせいか中央道が渋滞して現地到着が思惑より遅れた。レース後閉会式等を行う北麓公園で、どういうわけか配っている2000円分のクーポン券を貰いに寄りつつ、ひゅーさんを河口湖のホテルに下ろし、宿は20時までに入らないと夕食にありつけない、と言われていたところ45分もタイムオーバーしてしまったが、夕食は用意してくれた。
キリオ君は、明日に備えてメインディッシュのロースカツを半分も残し、食物繊維だからと牛蒡と牛肉の甘辛煮もサラダも残す。ウチの姉貴のような神経質さだと思ったが、ラーメンやカレーはカーボロードとしてはアリだとか、普段通りが大事とかの理屈でビールは飲んだりと、独自解釈が激しい。お陰で僕は余りモノにありつけ、ビールも大びん半分付き合って、腹はプックリ膨れてしまった。

宿はレース参加者向けを謳っているため、宿泊者はおそらく皆選手なので安心できる。部屋は4人の相部屋。頂上コース初参戦のキリオ君は相部屋の二人にも積極的に話しかけ情報収集。一人は参戦5年目というベテランだったが、まだ完走したことがないという。そんなに難しいものなのか。
僕ら二人は畳敷きのロフト部分で、僕としてはベッドより有難かった。
風呂に浸かって、10時過ぎに寝る。

7月25日(金)レース当日
普段よりぐっすり寝られた気がする。下階のシェーバーの音でハッと目が覚める。
4時から食事。ついさっき食ったばかりな気がして、茶碗一杯で止めとく。ただでさえ体重激増してるし。
山頂選手の多くが宿のマイクロバスで5時15分にスタート地点(富士吉田市役所)へと向かった。のんびりと僕はクルマで指定臨時駐車場へ。そこからは、積んであった通勤号で市役所へ。
キリオ君を探してうろうろしていたら、思わぬ人を発見した。2006年の今はなきオロロントライアスロンで知り合った岩手のT師匠。最近は珠洲で毎年会う。
前年の成績を基準に決められるというゼッケン番号は何と100番台のA組スタート。タイムを訊ねたら、去年で約3時間半という。マジか〜速すぎだ。T師匠と一緒に居たゼッケン一番違いの人は昨年順位が一番違いで、それがきっかけで知り合ったというが、失礼ながらその人の風貌はとても3時間半で走りそうな俊足の持ち主には全く見えない。
僕の目標タイムを話したら、もっと速いはずだと言われた。いやいや僕だって当てずっぽうじゃなく何度かトレッドミルで走ってみて己をよく知った上で決めたタイムなのだ。ちょっとしたオーバーペースでも地獄のような苦しみを味わうのは経験済みだ。

クマさんとなっちさんを見かけ、キリオ君とも合流できた。
山頂コースは7時スタート。整列開始時刻の6時半近くになるとスタートエリアに人が押し寄せてきて、定刻ととともに椅子取り合戦の如く道路にびっしりと人が並ぶ。ラッシュアワーの車内のような一歩も動けず座ることもできないエリアにキリオ君もなっちさんも入り込み、これから30分間立ちんぼの覚悟を決めたようだ。まじかよー。スタートラインを1分早く通過するための代償が大きすぎる気がするんだが。

ドラマチックに山頂コースはスタートし、ブースで買い物などをしたりして時間を潰す。今回のライバルまめきち。を捜し歩くも、見つけることができない。コーチについてどこか特別な場所でアップでもしているんだろうか。市役所裏の日陰で横になっていたらいつのまにか寝てた。7時55分、そろそろと重い腰を上げる。

暑い。エイドで水を2,3杯貰って全身にかけるが、数分後にはほとんど意味がなくなってる。
スタート直後から13.2km/hで飛ばせるよう、ウォーミングアップをそれなりに行うが、怠くてやってられない。
5合目の部は2組での整列スタート。後ろ組である僕は早々から並ぶことはせず5分前にスタートエリアに行く。山頂コースと比べ参加者は半分でレベルも幅が広いので、30分前から炎天下で並ぶメリットはそれこそ少ない。後方スタートでもロスは少ないだろう。
太陽がじりじり照りつけていたが、サングラスは5合目行きの荷物に預けた。浅間神社を過ぎれば必要なく、むしろ邪魔に思うかもしれないと考えた。

今回の作戦。
馬返しまでは、トレッドミルでシミュレーション練を重ね、このくらいなら何とか行けると踏んだペース配分を守る。約59分。前回の試走から5分縮められる公算だ。心拍数は143〜145bpmあたりを上限とする。

馬返しまでの簡略化したモデルと設定ペースは次の通り。
浅間神社 3%×13.2km/h 3.0km通過 13:38
中ノ茶屋 6%×11.2km/h 7.2km通過 36:08
大石茶屋 8%×10.2km/h 9.6km大石茶屋ってどこ?
馬返し 13%×8.2km/h 10.8km通過 59:02


そこからの登山道は、できるだけ歩かず走るスタイルで行くこと。それだけ。前回の試走では60分、同様に5分短縮を目論み、トータル1時間54分が目標タイムとなる。
その一方で、同じ5合目の部に出るまめきち。との勝負でもある。ところが、まめきち。は1時間52分を狙うという。正直それは厳しいのでは? 最初から狙えば必ずタレるはずと信じ、ぐっと堪えて、垂れてくるまめきち。をドヤ顔で追い越すとしよう。
1時間54分という予測さえもかなり都合のいい理屈で成り立っている。


8:30 a.m. 5合目の部スタート
スタートラインを28秒で通過。
路上パイロンのように遅い奴とか、ハナっから周囲のペースに合わせる気がない人が、苦労して前のほうに並ぶのはなぜだろう?
無理せず徐々にポジションを上げる。まあとにかく怠くて全く気が乗らない。スタート前に出店でオマケに貰ったRed-Bullをグビグビっと飲んでしまったが、こんな砂糖水を飲んで血糖値が狂い、やる気を落とすなんてホントに馬鹿だ。この頃はランが不調だったことはあまりないが、レース日はできることなら別の日にしたいなとつくづく思う。ゴールするまで休まることのない我慢大会が始まってしまったのだと思うと気が重い。
暑さと緊張のせいだろう、4%坂に入った頃には早くも心拍数は狙い目の143を越え151などと出ている。傾斜に見合ったペース配分は実のところ難しいため、心拍モニタリングで出力一定を見極める、との作戦が早くも破たんしてしまった。浅間神社直前のわずかな平坦路で一息つけることを期待したが、どうやらしんどい原因は傾斜とはあまり関係ないみたいだ。
黒いカーフガードがじりじりと暑い。こんなもん着けてこなきゃよかった。
浅間神社通過 13:23

タレを覚悟していたが、目標を15秒上回り、狙い通りのタイムでホッとする。体感よりもスピードは維持できているらしい。しんどいと思ったら素直にスピードを落とそう。心拍も151からぴたりと動かない。この値を基準として考えていいかもしれない。
エイドで水をかけると生き返った。ここからは日陰が多くなるので少し助かる。
少しずつ追い越しながら走る。後方スタートの影響がなかなか消えないのか、周りが突っ込み過ぎなのか。
まめきち。との対決も少なからず意識し、黄色の女性ゼッケンはチェックしているつもりだったが、実はこの前後付近で追い越していたようだ。しんどいのでほとんどは路面しか見てない。
中ノ茶屋通過 36:02

ここも見事に予定通り。ただ、心肺に無理のない計画だったはずが、残念ながらかなりしんどい。心臓にかつてない異変を感じた。AEDはこの辺りに用意されているだろうか、などと考える。
エイドで水を浴びるとかなり復活できるので、その後の上りがぐっと速まるが、長くは続かない。
追い越される場面も出てきた。徐々に傾斜は強くなり、強い信念もなく歩いてしまった。10歩くらい歩いてまた走る、を何度か繰り返す。ダメダメ感で満たされてきた。馬返しまでは走れ、って誰もがアドバイスしているだろ?
斜面が強烈になってきてまた歩く。「水とアクエリアスがありまーす」と黄色い声が頭上から聞こえてきた。やったぞ馬返しはすぐそこだ。
馬返し通過 59:02

歩いてしまったが、笑っちゃうくらい狙い通りのタイムだ。しかし、この時点ですでにイッパイイッパイなのが目論見と異なる。
まあでも、トレッドミルシミュレーションに対し、暑さ+高地の二つの条件が加算されると思えば合点がいく。このオーバーペース状態がこの後どう響くか。
エイドで少しのんびりしてから、おもむろに山道開始。なるべく走るスタイルで。
歩く人も増えたが、僕と同様に走るコンセプトの人は多い。
歩くと決めた人をパスするのは比較的容易だが、やはり微妙な速度差の選手の場合、通常のマラソンなどのようにペース維持でじわじわ追い越すことはできない。走路が二人分取れそうな場面でダッシュして追い越す。この一時的なスピードアップで体力をじわじわ削られていくかと思ったら、意外と無理ではないことが判った。基本が歩くようなスピードだから、一瞬だけ倍のスピードに上げるのだって難しくない。それに、勢いをつけてぴょんぴょんぴょんと上った方が効率がいい場面がある。追い越すという条件が、攻めの走りを後押しするきっかけを作っているのだ。きっとトップレベルは全てにおいてこの速度で上っているに違いない。
そこでふと思った。平地で13km/hを26km/hにするのはありえない。山道のほうが伸び代が大きいのではないか。馬返しまで頑張るより、山道で頑張った方がいい。
2合目通過 1:15:25

2合目を過ぎたころから、心地よい涼しさを覚えるようになってきた。しんどさは変わらないが、怠さからくるヤル気なさがようやく消えてきた。標高が上がり、次第に気温が下がる富士山の条件は他にはないメリットだ。
前回の試走は雨だったが、今日の路面コンディションはとてもいい。苦手に感じていたゴロゴロ岩の路面も、滑らずダイレクトに力が伝わるため土よりも走りやすかった。晴れの条件が次第にありがたいものに感じてきた。
一瞬舗装路に出たところのエイドでレモンとバナナを貰う。携帯したパワージェル系は全く摂る気になれない。
3合目通過 1:23:08

少し疲れてくると歩いて息を整えた。山道ではそれが「自分に負けた」ってことにならないのがいいね。後ろに人が迫っていれば追い越せるように端を歩く。そこまで同じペースだった人がどのくらい離れていくか見極めつつ、再びその人を追って走る。

時折、シャラポワみたいにヒーヒー声を出して上るタイプの人がいる。煩くて気になるのでさっさと追い越し、距離をとりたいとのモチベーションが生まれた。後ろを振り返らずとも距離感が測れて便利?だ。
次第に選手の密度が下がり、気が付くと後方には誰も見えなくなった。こうなると、自分のペースで走っても迷惑をかけないので気が楽になった。

平らに近い路面が増えたなと思ったら、頭上に舗装路が見えた。マジか!もうここ?
ゴールが間近であることは判っている。だが、再度登山道に入るところで「あと300mですよ」と言われ、さすがにそれはないだろ! 騙されんぞ、と思ったらホントだった。最後ってこんなに短かったっけ? 再び舗装路に出ると、赤いゴールゲートが見えた。考え事をしていたらいつのまにか終わってたかのようなのでせめて最後はリミッタ外して飛ばそう。
目前の計時板は1時間46分台を示しており、目を疑った。目標より遥かに早い。まめきち。には結局逢えず、前に居るのか後ろなのか判らないままだが、このタイムなら負けても悔いはないと思った。47分台に入らないように飛ばそう。本日最高の163bpmはここで出た。

五合目ゴール 1:46:59
total HR149/163  1558kcal

Polarによると心肺マックスのゾーン5が1時間30分もあり、全体の84%を占めて我ながらよく頑張ったなと思う。

すぐに水を3杯貰った。相当喉が渇いていたらしい。
一休みしていたらまめきち。がゴールするのが見えた。まめきち。も目標タイムを切り、ほぼ狙い通り。僕よりずっと分析が正確だったな。
ここから5合目の下山バス乗り場まで結構遠いってことが前知識としてなかった。疲労はないのでついでに登山を楽しむ感覚だったけど、山頂コースの人にとっては大変だろうな。

北麓公園でB級グルメ(実際C級ってところ)を食べて、昼寝して、山頂コースの人たちが戻ってくるのを待つ。
入賞したまめきち。の表彰式を見ていたら、50代以上の部で入賞した人の中に小野さんを発見。小野さんは数年前に埼玉の三上練などでご一緒し、2006年ころからIMJで意識しはじめた人物で、ベストタイムを出した2008年で唯一勝ったことのある、カテゴリが一つ上のライバルである。いや、ライバルとはおこがましくて言えないレベルの高さであることを今回もまざまざと思い知った。今日の小野さんのリザルトを見ると、山頂コース3時間32分弱のタイムだったが、馬返し通過は1時間2分弱、5合目通過は1時間51分付近で、つまり後半になるほど速いタイプと言えそうだ。そしてほぼジャスト3時間というベストタイムを40代で出しているそうだ。

昨夜貰った2000円分のクーポンは道の駅富士吉田に固まっている4つの施設内でのみ使える。僕らは迷うことなく地ビールのFUJIYAMAに向かった。実はそこで小野さんにばったり逢い、前述の話を聞いたのだった。3種の地ビールが置いてあり、小野さんが絶賛するスッキリ系ビールを買っていった。予想以上に個性的な味わいで確かに美味かった。